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分岐点 (中編)

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それは…、私の手のひらに隠れる大きさのミニカーだった。
「ミニカー…、これ、もしかして…」
啓一が気づいたようで、言葉をなくした。
「そうよ。竜輝のミニカー。病院で見つけたの。」
「…」
「あの日、保育園に持って行きたいって言ったけど、あなたにダメって怒られたミニカー。きっと、こっそりカバンに入れてたのよ…。」
その時の竜輝の様子を想像すると、自然と口元に笑みが浮かぶ。
「…」
「…長靴は道路脇の溝なんかじゃない!坂木さんの庭にあったの!私が見つけたの!」
「まさか…。」
啓一が絶句している。
「私は最初からおかしくなんかない。おかしいのは坂木さんよ!」
そう言い切ると同時に、

ドン!!

と、腹に響く音がした。
体を硬くしながら、叩かれた玄関の扉を見つめる。

ドン!ドン!

指先が冷えるのを感じる。
「坂木さんの奥さんよ。ここまで追ってきたのよ…。」
ミニカーを握り締める。
啓一はしばらく何か考え、私のほうを向いた。
「ここで扉を開けないほうが怪しまれるし、かえって危ない。」
「でも、あの人は本当に…。」

ドン!ドン!ドン!

二人同時に扉を見つめる。
「お前は奥に入ってろ。」
啓一の後ろ姿を見ながら、小さく返事をし、リビングへ入った。
手にしていたミニカーを自分のパーカーのポケットに押し込んだ。
作品名:分岐点 (中編) 作家名:柊 恵二