分岐点 (中編)
看護師がベッドまで近づき、毛布をめくる瞬間。
3、2…。
頭の中でカウントダウン。
1…。
毛布をめくる、そのわずかな音とともに、足に渾身の力を込めた。
0…!
真っ暗な部屋から真っ暗な廊下へと飛び出した。
非常口の案内表示が緑色に光っている。さっきいた暗闇の部屋よりは何倍も視界が開けている。
飛び出した途端、後ろから看護師の怒鳴り声が聞こえた。
振り返らずに走り、途中、トイレの近くにある赤い非常ベルを左肘で叩き割った。
ジリリリリリリ…!!
けたたましい高音とともに、避難誘導の自動アナウンスが流れ始める。
これで入院患者はパニック、病棟スタッフはその対応に終われるはず…。
私は後ろを振り返らず、息を止め、とにかく走った。外来を抜け、入り口にたどり着く。
クリスマスツリーのイルミネーションが光っている。
本当だったら私たちもクリスマスのケーキを食べて…
頭のどこかでそんなことを思い浮かべながら、入り口の鍵に手をかけた。
予想通り、1階は内鍵一つだ。
震える手で、鍵を開けた。
ナースサンダルの音が遠くから近づいて来る。
全身を使って扉を押し開く。
切るような冷たい空気が、開かれた扉から流れ込む。一瞬、ウッと息を呑むが、すぐさまその冷たい空気中へと身を投げ出した。
扉が閉まると、あの非常ベルの音はとても小さくなった。
転がるようにその場から離れた。
……私を見つめる視線があることにも気づかずに…。