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分岐点 (中編)

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夕食の配膳と下膳には、坂木さんが来た。
「杉川さん、少しお食事がとれたみたいですね。」
優しい口調、物腰柔らかな対応。普通の看護師にしか見えない。
「体調はどうです?」
「…頭がぼんやりして、体にうまく力が入らないんです。」
私はタイルの床にぺったりと座ったまま返事をした。
両脇を抱えられながら、ベッドへ誘導される。
「…今、何時ですか。」
「もうすぐ夜の8時になりますよ。」
ベッドへ横になり坂木さんの表情を見るが、微笑んでいるその表情は仮面のように変わらない。
さっぱり心情は読み取れない。
「寝る前にトイレに行きたいので、消灯の時にお願いします。時間も分からないので。」
私は目を閉じた。
しばらくの沈黙。心臓の音が耳に響く。
「ええ、じゃあ夜勤に引き継いでおきますね、しっかり休んで下さい。」
重い扉が閉じられ、ガチャリと鍵をかけられた。
しばらく心臓の拍動が鳴り響いた。


坂木病院の勤務体制は知っている。
坂木さんと何度か話題に出たことがあるからだ。
二十時に勤務交替で、日勤から夜勤へ引き継ぐ。消灯の21時半には看護師の人数は各病棟3人になり、病院全体が手薄になる。
この時しかない。

作品名:分岐点 (中編) 作家名:柊 恵二