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分岐点 (中編)

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『かーちゃん』


竜輝の笑顔。目を糸のように細めて白い歯をにーっと見せる。
最近竜輝の夢ばかり見る。
―早く会いたい


意識を取り戻した時、あたりは見知らぬ場所だった。
ぼんやりとした頭で辺りを見回す。
―頭が痛い
真っ白な壁と天井。6畳くらいの広さに一面タイル張りの冷たそうな床。
医療者には馴染みのある医療用の棚や救急カート。
私はベッドに横になっているらしい。
ここはどこ…状況が全く分からない…今何時なのか。
顔だけ動かし見渡すが、窓もない。荷物もない。
―どういう事…
―竜輝を探していて…
―そうだ、長靴を見つけて、私…。
ここは坂木病院内だと気づいた。
重だるい体をなんとか起こし、かけられていた薄い毛布をはいだ。ベッドから降りようとした途端、床についた足に力が入らず、そのままタイルの床に落ちた。
―痛い…
うまく力の入らない手足を使い、床を這いながら扉へ向かった。
―待ってて、竜輝…
―必ず見つけるから…
パタパタとナースサンダル独特の音が近づいてくる。
―誰か来る…
這うのがやっとの私に隠れる余裕などなかった。そもそもこの部屋に隠れるスペースはなかったが。

作品名:分岐点 (中編) 作家名:柊 恵二