分岐点 (中編)
一瞬、時間が止まったようだった。
「…『どうして』って…、なんでそんな、軽々しく言えるのっ!」
カッとなった。
こんな気持ち初めてだった。
私は長靴を抱いたまま、雅也君の学生服につかみかかった。
なんの抵抗もしない雅也君は、そのまま廊下の壁にぶつかる。
「なんでケーキの話、知ってるの!あの日、初めて竜輝と千恵に話したのよ!」
「なんでこの長靴、竜輝のものだって分かったの!?」
「あの日、初めて履いたのよ!よく覚えてたわね、一瞬しか見てないのに!」
「何か知ってるの!?知ってるなら教えてよ!」
「竜輝はどこにいるの!!」
廊下全体に声が響き渡った。
全身の血液が頭に逆流してくるようだった。
立て続けに声を荒げるが、反対に雅也君は身動き一つせず、こちらの様子を伺っている。まるで、嵐が収まるのをじっと待っているようだ。
「…お役に立てなくてすみません。」
雅也君はそうつぶやいた。
―まるで私が苛めてるみたいじゃない!
周りから見たら、そう見えるだろう。
「何言ってんの、ねえ!知ってるんでしょう!!どこにいるのか!!」
服を握り締める手に力をこめる。ダウンジャケットと長靴が音をたてて廊下に落ちる。
「何も知りません」
視線を合わさない雅也君は淡々と答える。
「竜輝を返してぇっ!!」