分岐点 (中編)
あわてて、もう一度、門へ足をかける。
そばを通る人に怪しまれたが、そんなことどうでもよかった。
私は長靴を握り締めたまま、隣の坂木病院へ駆け込んだ。
辺りを見回すと、病院とは思えないほど清潔感と明るさ。初めて中まで入ったが、クリスマスで装飾された施設内は全く精神科というイメージではなかった。
ダウンジャケットを脱ぎ、辺りを見回す。
看護師に声をかけられたが、奥の部屋へと続く廊下で雅也君の姿を見かけ、看護師を無視して奥へと入った。
「雅也君!」
思わず大きな声を出してしまい、雅也君も驚いた様子でこちらを振り返る。
何度見ても、大人びた端正な顔立ち。
「竜輝君のお母さん。」
「あ、あ、あのね。」
―なんて伝えたらいいんだろう。
言葉がうまく出てこない。
「…竜輝君、まだ見つからないんですか…。」
雅也君は少し猫背気味だが、背が高く私よりも視点が高い。
暗い表情で見下ろされながら話しかけられると圧倒される。
竜輝を弟のようにかわがってくれる雅也君、本当に悲しそうな表情…。
その表情に、最初の勢いを失いそうになる。
「うん、それでね…」
長靴のことを尋ねようとした。
「心配ですね、竜輝君…。いつだったか、クリスマスはどんなケーキにしようかって、一生懸命話してましたよ。すごくかわいかった。」
雅也君は悲しそうに微笑んだ後、うつむいて小さくため息をついた。
「……」
気分が悪くなった。つばを飲み込んだ。
―なんで…
―なんで、ケーキの話…
「あれ、その長靴…。」
雅也君はうつむいた時に、私の持っている長靴に気がついた。
「……これ。」
心臓がドッドッと高鳴る。耳の後ろまで、拍動が響く。
「雅也君の家の庭に落ちてたの。」
雅也君の目をじっと見つめる。
吐き気がする。
「…へぇ…。」
何の動揺もみられない。
その代わり、死んだような瞳。
「竜輝君の長靴…。どうしてうちに落ちてたんですかね?」