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分岐点 (中編)

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竜輝との思い出がいくらでもあふれ出る。
急な突風に目を閉じ、現実に引き戻された。
空を見上げ、薄暗い雲が広がるのを見る。
どこからかかすれたクリスマスのメロディーや、パトカーのサイレン。
いつもなら気にもとめない、車のエンジン音、学校のチャイム…、いろんな音が耳に入ってくる。
竜輝がいないだけで、こんなにもまわりの音が聞こえるのか。
範囲を広げながら、もう何度も探した公園やスーパー、電気店の道を通り、坂木病院の近くまで来た。
ふと、学生服の雅也君が病院の中へ入るのが見えた。
不思議に感じたが、思い出せばそういえば今日はあちこちに学生の姿を見かけた。
―十二月二十一日…明日から冬休みだ。
納得しながら、坂木病院を通り過ぎ、隣にある坂木さんの家の前を通る時に違和感を感じた。引き返し、大きな門に手をかけ、目を見開いた。

坂木家の門の奥には、大きな松の木がある。小さな日本庭園みたいだった。
その植え込みの影に、似つかわしくないあざやかな青い色が見える。
躊躇せずに門に足をかけ、よじ登った。インターフォンを押すことも思いつかなかった。
運動が苦手な私は、門から飛び降りるというより、落下した。
それでも、震える足で植え込みに駆け寄った。
座り込みながら、それを手に取る。


―…長靴…
新しい長靴の片方だった。青い、星柄の長靴。
あの日、どうしても履いて行くと言い張った長靴。
かかとに大きく名前が書かれていた。
『すぎかわ りゅうき』
―竜輝!
長靴をぎゅっと握り締めた。

作品名:分岐点 (中編) 作家名:柊 恵二