分岐点 (中編)
十二月二十一日(金)
いつ精神状態が破綻してもおかしくない状況だった。
けれど、あの、左手の感触。
絶対に竜輝はどこかで生きている。
何かを訴えたくて、私のもとに来たんだ。そう信じて捜し歩いた。
その希望で私の精神は正常に保たれていた。
何度も何度もあちこち往復しながら歩いた。
竜輝が入り込みそうなところへは、泥まみれになりながらも入っていった。
服装だの、化粧だの、どうでもよかった。
冷たい空気に、手先が切れる。
『竜輝はねー、もっとちっちゃい時に、かあちゃんのぽんぽんの中におったんよ』
『ほんで、こうやってしゅるっと出てきてね、キラキラーってなってて、寒くなってね…』
『かあちゃんのお顔が見えたんよー!』
3歳の頃、胎内記憶というのを突然話し始めた。
こういうのは聞いてもないのに話し始めるというが、本当だった。
あんまり質問攻めにすると口を閉じてしまうらしいので、ふんふんと静かに聞いていると、大きな身振り手振りで、自分の出産シーンまで再現してくれた。
かなり驚いたが、竜輝がとても楽しそうに話をしてくれたので、私も幸せな気持ちになれたのを覚えている。