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分岐点 (前編)

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「お兄ちゃーん、見て、長靴ー!」
竜輝も雅也君を見つけてテンションが上がっている。
町内会の行事の時にはよく遊んでもらっているのだ。きっと竜輝にとっては憧れの存在なのだろう。
「ズボンとおんなじ青色だね。」
腰を少し落として、視線をちゃんと合わせる雅也君。
「竜輝、『おはよう』でしょ!」
「千恵ちゃんはあわてんぼう歌ったの~!」
「俺の長靴、お星様が書いてあるんよ!」
それぞれが一斉に話しかける。
雅也君は嫌な顔せず、にこにこと笑っている。
お母さんの話によると、私立の名門校に入るため試験勉強真っ最中だそうだ。
―大変だなぁ…。
中学三年生にしては大人びた顔つき、口数も少ない。
同級生たちに囲まれている姿を見ると、一人少し違った印象を受ける。
―何でだろう。あ、そうか。
雅也君だけ、学ランの襟まできちんとボタンをとめているのだ。
―真面目だなぁ。竜輝は大きくなったらどんな男の子になっているのだろう。
―今は甘えん坊のふにゃふにゃだけど、雅也君みたいにしっかりした子になってくれるかしら…。
二言、三言言葉を交わし、私は自転車を押し始めた。
「雅也君、また遊びにおいでね。」
「はい、ありがとうございます。竜輝、千恵ちゃん、またな。」
雅也君は竜輝の頭を軽くぽんぽんぽんとなでた。
竜輝は気恥ずかしそうに、目尻を下げてにやついている。
「ばいばーい、またねー!」
自転車をこぎ始めると、椅子から落ちそうなほど後ろを振り返って竜輝が大きく手を振っている。
「かーちゃん、またお兄ちゃんと遊ぼうね!」
「千恵ちゃんも、千恵ちゃんも!」
大興奮の二人を見ると、アイドルみたいな存在の雅也君が羨ましくなってしまった。
保育園では子ども二人を別々のクラスへ送り届け、私は再び自転車へまたがった。
来た道をもどり、今度は職場へ向かう。
私は、自宅近くの小さな内科で看護師として勤務している。九時から夕方五時までのパート。
育児を始めるまでは1000床以上ある大規模病院でバリバリ働いていたのだが、やはり、二人の育児と自分のやりたいことの両立ができず…。
仕事を辞めた理由を子どもたちのせいにはしたくない。結局は自分の力量不足で、現在のパート勤務に落ち着いているのだ。
「おはようございまーす」
 白衣に着替え、詰め所へは入ると、ギュッと心が引き締まる。
つい、若い頃の事を考えると、現状に、看護師としてもの足りなさを感じることもある。
しかし、小さな個人病院といえど、大病院とは違って、個人病院ならではの忙しさがあり、あっという間に一日が過ぎて行く。

作品名:分岐点 (前編) 作家名:柊 恵二