分岐点 (前編)
横断歩道の前で自転車を停めた。
「ケーキ、今年もみんなで作ろうね。」
クリスマスのケーキは一家全員で手作りするのが恒例となっていた。
と言っても、市販のスポンジに生クリームを塗って、果物をのせるだけなのだけれど。
「千恵ちゃん、ケーキちゅくる!いちごがいっぱい、いっぱい、いっぱいのってるの!」
「そんなにたくさん、のるかなぁ…。」
振り返ると、竜輝は小さな手で望遠鏡を作って何か遠くを見ている。
「竜輝は?」
「今、海賊になりましたー。」
「海賊さーん。」
「はぁい。」
竜輝は望遠鏡で覗きながらこちらを見る。
「クリスマスはどんなケーキ食べたい?」
「ええっとねぇ…。」
竜輝が懸命に考え込んでいるうちに、信号が青へと変わった。
「かーちゃん、青よ~!!」
千恵が自転車を揺らす。
「出発進行~!」
いつもと変わらない、朝だった。