分岐点 (前編)
しばらくペダルをこいでいると、途中、後ろから声をかけられた。
「竜輝君のお母さーん!」
足は止めず振り返ると、竜輝と同じクラスの梅里佑介君のお母さんだ。
「あ、佑君のお母さん、おはよう~!」
同じように並んで保育園へと向かう。
自転車に乗ったお母さんの背中から佑介君が顔をのぞかせた。
「おっす、竜輝!」
「あ、佑君!かーちゃん、佑君よ!」
一番の仲良しのお友達を見つけ、にこにこ顔で紹介してくれた。
とっても自慢気な様子に、つい吹き出しそうになってしまった。
「かなり寒くなったねー!」
「でも昼間は結構暖かいから、朝、どんな服を着せたらいいんか迷うんよね。」
たわいない日常会話。
でもそれが結構ストレス解消になる。
竜輝は後ろの椅子どうしで、佑君に青い長靴を自慢している。
佑介君とは同じ時期に保育園へ入園した。そのため、梅里さんとはお互い送り迎えの時に愚痴を言いあったり、保育園の行事に一緒に行ったり、かなり心強い味方である。
「ママ、俺しっこもれそう。」
「えっ、嘘!ごめん、先に行くわ!」
「大変、急いで!でも気をつけて!」
佑君の真剣な表情に声をたてて笑ってしまった。
佑君のお母さんは猛スピードで自転車をこいで行ってしまう。
「かーちゃん、祐君すげー早いね。追いかけてよ。」
「えぇ~、あんな早いの追いつけないよ。」
私は少しだけペダルを強く踏んだ。