分岐点 (前編)
勤務の前に、私は自転車で子どもを保育園へ連れていかねばならない。
自転車の前の椅子には妹の千恵、後ろの椅子にはお兄ちゃんの竜輝。
―重たくなってきたなぁ
そんな事を考えながら自転車をこぎ始める。
二人分の重さ、さすがにこぎ始めがふらつき、かじかむ冷たい手にぐっと力をこめる。
「俺、自分の自転車ほしいなー。」
最近、竜輝は時々自分のことを「俺」と言うようになった。
保育園でのかっこいいお友達の影響かな。
本人は「俺」と「僕」の違いはよく分かっていないのだが。
「そうだよねぇ…。」
自転車…。
そろそろ言い出すだろうなぁと覚悟はしていたのだけれど、この寒い季節の中、練習に付き合わされるのかと思うと億劫になっていた。
ついつい比較してしまうのだが…、千恵はおもちゃ屋なんかへ行ってしまったら、『まだ帰らーん!』と言いながら大の字になってしまうタイプ。
一方、同じようにおもちゃ屋へ行っても特に駄々をこねることのない竜輝。
最近のワガママといえば、今朝、おもちゃを保育園に持って行きたいと言い出したことや、どうしても新しい長靴を履いて行くと言い張ったことくらいだろうか。あれから結局、雨でもないのに長靴を履いている。
―こうやって自分の欲しい物を訴えてくるのって珍しいし…。
―自転車、そろそろ買ってあげてもいいのかも…。
自転車をこぎながら、ぼんやりと考えていた。