分岐点 (前編)
―そう言えば、昨日の刑事さんがまた来るって言ってたような…
啓一が対応してくれたのだろうな…、どのみち今の私じゃ役に立たないだろうし、と考えながら、自宅までたどり着いた。
自宅の玄関へ入る直前に呼び止められた、というか突然抱きつかれた。
「杉川さん!!」
「…!」
私は驚いて声が出なかったが、相手が誰かはすぐ分かった。
職場の田中さんだった。
私を抱きしめたまま、田中さんはおいおいと泣いている。
「仕事に来ないから自宅に電話しちゃったのよ。勝手に休む人じゃないし、何かあったんだと思って。そしたらこんなことになってるなんて!」
仕事のことなんてすっかり忘れてしまっていた。無断欠勤なんて初めてだった。
「すみません、私、連絡も入れずに…。」
されるがままに体を揺さぶられる。
「いいのよ、いいのよ、そんなこと!それより、私、責任感じてて…。昨日、やっぱり、あなたをちゃんと定時で帰らせてたらって思ったら、胸が痛くて…!」
田中さんは私を解放すると、グシャグシャになった顔をハンドタオルで押さえている。
その時、その後ろを小さな男の子がこちらに向かって走って来るのが見えた。
「!!」
息を止め、田中さんを押しのけた。
「わっ、何、どうしたのっ?」
慌てる田中さんに気遣う余裕はなかった。目を見開いて、その小さな姿を見た。