分岐点 (前編)
結局、昼まで竜輝を探し歩いたところで、啓一と交替しようと考えていた。
疲れているという状態が分からなくなってきた。
頭の隅で、マラソン選手のランナーズ・ハイみたいだ、なんてどうでもいいことを考えていた。
家までの帰り道、大きな建物が目につく。
「坂木病院」と目立つ文字で書かれている。
雅也君のお父さんの病院だ。心療内科と精神科が主で、ベッド数も150床あり、街中にある個人病院としては大きな病院だ。
従来の精神科のイメージとは違って、若い人も訪れやすい開けた雰囲気となっている。
十二月に入って、サンタクロースやツリーなどのクリスマスの飾り付けがされていた。
ここの前を通った時に、おもちゃ屋か何かと勘違いして竜輝が入っていってしまったことがある。
理由はなく、じっと見つめていると、小さな声で声をかけられた。
「あの、ご用でしょうか…。」
見ると、雅也君のお母さん。
「坂木さん。あ、いえ、すみません…。」
ぺこりと頭を下げた。
坂木さんは、にこりと微笑む。本当に奥様って感じ…。
「よく雅也がお世話になってるみたいで…。」
「いえ、こちらこそ、いつも雅也君に遊んでもらっていて…。」
―こんな会話してる場合じゃないんだけど…
「今日はお仕事は?」
「あ、あの…。」
坂木家にはまだ連絡網がまわっていないのだろう。
私は竜輝がいなくなったことを説明した。
坂木さんは手を口に当て、表情はみるみる真っ青になる。まるで自分のことのように心配してくれている。
「…なんて言ったらいいのか…。私にできることがあれば、なんでもしますから。」
「ありがとうございます…。」
―逆の立場だったら、この上品な奥様はどうなるんだろうか
―いざっていう時に人間の本性が見えるんだよね
―今の私は、他人から見てどう映っているんだろう…
私は協力の依頼を改めてお願いし、その場を後にした。