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分岐点 (前編)

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「杉川さーん!」
大きな声が響き、顔をあげた。
大きめの体を揺らしながら、お向かいの竹下さんが近づいてきた。
旦那さんが町内会長をしており、夫婦で還暦を迎えているが見た目は若々しく、何でも頼れる町内のお母さん的存在だ。
「ついさっき旦那さんから連絡あったわよ。もう、びっくりして…」
涙もろい竹下さんは、すでに目も顔も真っ赤になっていた。
「今、うちの人が連絡網でまわして、人手を集めてるから。」
そう言いながら、私の手をぎゅうっと握る。
「ありがとうございます…」
もっと感謝すべきところなのだけれど、言葉も思いつかず、そんな時間がもったいないと感じてしまった。
頭を下げ、その場を離れようとしたが、もう一人駆け寄ってくる姿が見えた。
「杉川さん!大丈夫??」
「……」
お隣の松野さんが菜月ちゃんと一緒に走ってきた。
菜月ちゃんは変わらず、お母さんのスカートを握っている。
幼稚園の制服を着ているのが見えたため、今はお見送りの9時頃だと分かった。
「昨日、夜中に杉川さんの旦那さんから話を聞いて…。」
―ああ、昨日啓一を不審者扱いしたのはこの人か。
「今日、少しでも早く杉川さんに会わないとって思ってたのよ。私も心配で…。」
―その割には、化粧もばっちりじゃない
ふと自分の姿を見ると、昨日から同じパーカーに、ジーンズと靴は泥まみれだ。適当にまとめた髪の毛、もちろん化粧なんてずいぶん前にとれている。
―なんで、こんなことになってるんだっけ…
菜月ちゃんがそっとこちらの様子を伺っている。
―なんで、うちの子なんだろう
―なんで、この子じゃないんだろう…
「杉川さん」
声をかけられ、ハッとした。
―私、今…なんてこと…
心臓が速く打ち始める。
私は目を合わす事ができず、無言で頭を下げた。

作品名:分岐点 (前編) 作家名:柊 恵二