分岐点 (前編)
「…わしも悪かった」
啓一は、私が倒した椅子を戻し、ゆっくり座らせてくれた。
「起きていることは現実なんだ。過去のことを、ああすればよかった、こうすればよかったは、いくらでも思いつく。でも、そんなことをしてても、竜輝は見つからない。そんなことに労力を使うより、これからどうするか考えるほうに頭をまわすんだ。」
「うん…。」
「今、一番怖い思いをしてるのは、俺たちじゃない。竜輝だ。」
コーヒーを一口飲むと、啓一は私に背を向けた。
「三十分経ったら、起こしてくれ。」
「うん…。」
寝室へ向かう啓一の、丸まった背中を見つめた。