分岐点 (前編)
「また明日朝、お伺いします。」
啓一が戻ってきてから、深夜、二人の刑事は一旦引き上げることになった。
これから本部で対策を立てるらしい。
誘拐の線も考慮しながら…。
それから私と啓一は交替しながら、明け方まで懐中電灯の灯りを頼りに近所を歩きまわった。
啓一が『お隣さんに、逆に不審者と思われた』と苦笑いしていた。啓一のそんな冗談に、笑い返す余裕が私にはなかった。
啓一と交替し、真っ暗な細道を、小さな灯りだけで進む。
もうどこをどう通ったのか分からない。
いつもの道も暗闇にまぎれると、別世界のようだ。
考えたくないことばかり勝手に考えてしまう。
日々流れるニュースも、結局はどこか他人事に感じていた罰が下ったのか。
どうして竜輝がこんな目にあわなければならないの。
―どこで、何してるの。
―ああ、もっと早く自転車を買ってあげればよかった…。
―お願い、早くかーちゃんの前に出てきて。
―そして、いつもみたいに『すまん、すまん』って、とーちゃんの物真似してみせて。