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分岐点 (前編)

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竜輝は、名前に似合わずおとなしい性格で、甘えんぼう。
背格好は小さめで、保育園ではどちらかというと、お絵かきやブロックに没頭して遊ぶのが大好き。もしくは女の子に囲まれながら、おままごとに参加している。
『今日は何して遊んだの?』と聞くと、『なっちゃんとお化粧したよ』という返事もよくあることだ。こういう時、どう返事をしたらいいのやら。
アニメを見ていて戦いの場面になると、一人静かに泣いている。良く言えば優しい性格、悪く言うとかなり怖がり。4歳の年中さんで、何かあるたびに保育園の先生からも「来年は年長さんなんだよ」と言われているが、本人は首をかしげている。

妹の千恵は、2歳の乳児クラスにいる。先生達は口にはしないが、乳児クラスのボスみたいな存在だと私は思っている。3月の早生まれであり背格好は一番小さいのだけれど、とにかく声が大きく、力も強い。おしゃべりするか、常に走り回っている。
『千恵ちゃん、○○ライダーになりたーい!!』と言いながら、変身ポーズをとったり、空想の敵に向かってパンチしたり。とっても頼もしいのだけれど、2歳のわりに一人前の言葉がスラスラと出てくるので、口喧嘩になるとあっという間にお兄ちゃんを言い負かしてしまう。その後のお兄ちゃんへのフォローがかなり大変である。
お兄ちゃんと性格が反対になったらいいのになぁとたまに思ったりもするが、これがこの子たちの個性なんだろう。
独身の頃は、自分は親バカにはならないと思っていた。
我が子の写真を携帯電話の待ち受け画面にしたり、動物の着ぐるみを着せて年賀状にしたり、そんなこと恥ずかしいし、考えられなかった。
でも、親になった途端、あっという間に親バカになったし、親バカにいいやと思っている。
生意気盛りの4歳と2歳。
子ども相手に本気で怒ってしまうこともあるが、でも結局は二人ともかわいくてしょうがない。

三十四歳、同い年の夫、啓一は自動車関係の本社で課長という役職についている。
正直、一体どんな仕事をしているのかよく分からないのだが、年末は忙しいと走りまわっている。無口な夫はあまり仕事を家庭に持ち込むことはないが、疲れているのは見ていてよく分かる。
それでも休日はできるだけ子どもとの関わりを大事にしてくれる人で、くたくたになりながらもドライブに連れて行ってくれる。
『わしは怖い父親になる』が口癖だけれど、子どもたち、特に妹の千恵には甘々だ。口に出すとご立腹されるので、本人には伝えてませんが。
私、杉川瑞樹は近所の小さな個人病院で看護師としてパート勤務している。
育児、家事、そして仕事に追われながらも、それなりに充実した毎日を送っている。ただ、欲をいえばもう少し一人でのんびりする時間も欲しい。

作品名:分岐点 (前編) 作家名:柊 恵二