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分岐点 (前編)

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十二月十八日(火) 八時

「こらっ、保育園におもちゃは持っていけないって言ってるだろ!」
朝から父親に怒られて、がっくりと肩を落とす竜輝。
「じゃあ、長靴履いていく!新しい靴!」
「こんなに晴れてるのにか?雨の時にしなさい!」
狭い玄関から、父親の声が響く。
「いけないって言ってるのに、ねー?」
お兄ちゃんが怒られるのを見て、笑っている調子ものの千恵。
「千恵ちゃんもかばんからぬいぐるみ出しなさい!」
私の声に、ギクッとして体を揺らす。
そんな慌しい、いつもの朝。
ごくごく平凡ないつもの始まり。

イルミネーションが輝き始める季節。
玄関を開けると、冬独特の冷たい空気に身が引き締まる。
「かーちゃん、蒸気機関車ー!」
振り返ると、4歳の竜輝がはーっと白い息を吐いている。
真っ白な息は、蒸気機関車の煙の様。
「お、本当、蒸気機関車だね。」
子どもの発想に心が暖かくなる。
2歳の妹、千恵も、お兄ちゃんの真似をしようと一生懸命、口をとがらせて息を吐く。
「千恵ちゃーん、そうじゃないんよ。はーってするの。」
「はぁーっ。」
二人で大きな口を開け、白い息を吐きながらキャッキャッと笑っている。

作品名:分岐点 (前編) 作家名:柊 恵二