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分岐点 (前編)

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「詳しく経緯を教えていただけますか?」
警察は思っていたよりも早く到着した。
現れたのは、五十代くらいの加藤と名乗る刑事と、もう一人は私と同じ年くらいに見える林刑事だった。
家の中に通したものの、正直こんな二人で大丈夫なのかと思うほど、頼りなく見えた。
―詳しい経緯ったって、いつも通り迎えに行ったらいなかったのよ!!
―今すぐにでも探しに外へ行きたいのに!!
しかし、警察の手を借りないわけにはいかない。
パニックになりそうな思いを必死で抑え、私は朝からの出来事を説明した。
その間に、書類の手続きは啓一がこなしている。
刑事二人がメモをとったり、上司らしきところへ電話をかけたり…。
「じゃあ、私は探しに行きますんで!」
我慢できず、私は立ち上がった。
「いえ、奥さん、待って下さい。」
冷静な加藤刑事のしゃがれ声に、いら立ちを抑えられなかった。
「待ってられるわけないでしょう!!私は私にできることをします!」
私はダウンジャケットをさっと羽織り、リビングの扉に手をかけた。
その手を突然強い力でつかまれ、見上げると若い刑事のほうだった。
「すみませんが、もし家に電話がかかったときにために、どなたかが家にいてもらわないと困るんです」
「……??…電話…??」
じっと見つめたままでいると、林刑事は私から手を離し、ゆっくり説明し始める。
「子どもの失踪の場合、考えられるのは単なる迷子や家出の場合と、…誘拐です」
―『誘拐』って…、ドラマとかでよくあるやつ?
現実と結びつかない。
林刑事が何か話しているが、キンと耳鳴りがして、全然聞こえない。
「……」
―朝まで一緒にいたのに。
―なんでここに竜輝はいないの。
―この人たちの言ってる意味がわかんない…。
啓一にポンと肩をたたかれ、そのまま啓一の胸に引き寄せられた。
「…啓一、ねえ、意味が分かんない」
啓一は私の目を見つめたあと、二人の刑事のほうに顔を向けた。
「刑事さん、よろしく御願いします。」
深々と頭を下げる。
啓一のゴツゴツした手が拳を握っているのが見えた。
―ああ、現実なんだ。
―ドラマじゃないんだ。
啓一の手にすがるようにつかまりながら、へなへなとその場に座り込んだ。
「瑞樹、今度は俺が探しに行ってくるから、お前は残って休め。」
頭の上から声が降ってきた。
「…いやよ!」
「瑞樹、言うことを聞くんだ。」
「やだ!私も行く!」
啓一は腰を落とし、子どもを諭すようゆっくり話し始める。
「竜輝がもし家に帰った時に、お前がいなかったあいつは大泣きだ。居てやってくれ。それに、俺とお前が一緒に倒れたら意味がない。」
力なく一度うなづいた。
「お前が休んでる間は、俺が探す。」
啓一言うことが正しいのは良く分かっていた。
ただ、じっとしていられない気持ちでいっぱいなのだ。
啓一は立ち上がり、刑事に連絡先を説明した後、黒いコートを手にしてリビングを出て行った。

作品名:分岐点 (前編) 作家名:柊 恵二