分岐点 (前編)
気付くと、とうとう家の近くまでたどりついていた。何の手がかりもなく。
―もう一度保育園までの道を…
そう考えているところで、声をかけられた。
「瑞樹!」
顔をあげると、スーツ姿の啓一が走ってくるのが見えた。
私はその場に自転車を倒した。
全身が震え出す。
「今、家に車を停めてきた。どこまで探した?…瑞樹、お前、足怪我したのか?」
見るとジーンズの両膝あたりに血がにじんでいる。さっきコンビニの前でこけた時だ。
そんなことどうでも良かった。
張り詰めていた緊張の糸が切れてしまった。
「……ど、どうしよう、どうしよう!どこにもいないの!いつもの公園も、スーパーも!あの子、一人じゃ遠くになんて行かないのにっ!!」
「瑞樹。」
「こんなに寒いのに、真っ暗なのに!!どうしよう!!きっと一人で泣いてる!!ううん、車にはねられてたりとか……!!」
視界がぼやける。
考えないようにしていた最悪の状況が、次々に思い浮かぶ。
ガクンと膝が折れ、その場に座り込みそうになったところを、啓一が支えて立ち上がらせた。
「今、お前が座り込んでる場合じゃない。泣いてるだけじゃ竜輝は見つからない。」
そう言う啓一の腕も小刻みに震えている。
きっと、自分自身にも言い聞かせたのだろう。