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分岐点 (前編)

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無我夢中だった。
千恵を実家に預けたあと、とにかく走りまわった。
あの子が一人で歩いて行ける範囲はしれている。竜輝の行きそうな場所まで自転車をこぎ、その場に自転車を投げ捨て、くまなく探した。
保育園から一番近い公園。お気に入りのドーム型の遊具の中、トイレ、物置小屋…。竜輝の背丈ほどある草やぶの中へも入った。
近くに消防署があり、いつも消防車や救急車をながめていた。
『竜輝は、ショウボウショになる』
キリッとした表情でつぶやいていたのを思い出す。「消防士」と言いたかったのだろう。
無意識にポケットの携帯電話を確認する。
―18:50―
ディスプレイに表示される数字を見る。
着信はない。もしかしたら保育園に隠れている可能性もあるため、先生方にも探してもらっている。見つけ次第、連絡してもらうよう伝えていた。
思わずため息が出た。
この時期、陽が沈むのが早い。空を見上げるとすでに辺りは真っ暗だった。公園と道路の電灯だけでは頼りない。
自転車に手をかけ、コンビニへ走った。
懐中電灯を購入し、もう一度自転車に乗ろうとしたところで、ペダルを踏み外した。派手な音を立てて、自転車とともに倒れこむ。
コンビニの若い店員に声をかけられたが、耳に入らなかった。曖昧な表情で返事をし、ゆっくり自転車を起こした。
―大丈夫、大丈夫…。
自分に言い聞かせ、今度は家までの道のりを自転車を押しながら歩いた。
小さなスーパーには、私と同じような仕事帰りの主婦たちが賑わっていた。その入り口には、百円を入れてハンドルを回すとおもちゃが出る『ガチャガチャ』がある。千恵がまだうまくハンドルを回せず、その度に竜輝が『お兄ちゃんがやったげる』と強く言える、数少ない場所。
その隣にある電気店では、いつも電池を眺めていた。子どもの感性はよく分からないが、竜輝にとっては電池がとても魅力的なものらしい。『だって、これがないと電車が動かんのよ』と言われ、少し納得。電車とは、竜輝の大事なおもちゃの電車である。
まだ灯りのともっている店へは中へ入り、店員へ自分の電話番号を伝え、協力を御願いした。
脇道も懐中電灯で照らしながら、探し歩いた。
途中、大きな犬を飼っている家があり、そこを通るときは必ず無言になる竜輝をふと思い出す。

作品名:分岐点 (前編) 作家名:柊 恵二