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分岐点 (前編)

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「…やっぱりいない。」
周りにいる大勢の子どもたちの声が遠くに聞こえる。
手が震え始める。
―どうしよう、どうしよう、どうしよう、どうしよう、どうしよう。
怖がりの竜輝は、スーパーへ買い物に行っても、おもちゃ屋に行っても、常に私が見える位置から遠くに行くことはない。
それなのに…。
握り締める携帯電話に視線をやった。
震えててもしょうがない。
私は携帯電話のアドレス帳を見て、思いつく限りの人に片っ端から電話をかけていった。

…結果は同じだった。
頭がまわらない。
「かーちゃーん、おうち帰らないのー?」
テラスから千恵の声が響く。
「あ、そ、そうだね。もうすぐ帰るからジャンバー着ててね。」
千恵に動揺を悟られないように、できるだけ笑顔で答えた。
「わぁーい!千恵ちゃんジャンバーひとりで着れるよー。」
ドタドタ走りながら千恵の声が小さくなっていった。
―そうだった、夫の啓一に連絡しなければ。
―えっと、番号何番だっけ…。
番号が思い出せない。
―いつもどうやって電話かけてたっけ…?
履歴を探してようやく夫へ電話をかける。
「もしもし?どした?」
いつもの啓一の声につい目頭が熱くなる。
「あ、あのね…。」
私は事情をゆっくりと説明した。
声が震えるのは寒さのせいだけじゃない。
私の性格を知っている啓一は、できるだけ冷静に受け答えしてくれる。
「…分かった。そっち戻るから、お前はまず千恵を実家にあずけるんだ。」
「う、うん。」
「わしが帰るまで、しっかりしろ。」
「…うん。」
電話口から聞こえる啓一の声を、これほど頼もしく感じたのは初めてだった。

作品名:分岐点 (前編) 作家名:柊 恵二