分岐点 (前編)
同日、十七時五十分
いつも保育園の迎えは十八時前になる。
十八時過ぎると、延長保育になるため別料金になってしまう。一分過ぎただけでも、きっちり料金の徴収がされるので、こちらとしては必死だ。そのためか、この時間帯に迎えの親が多く、一番込み合う。
その頃、大抵、園庭で音楽に合わせて幼児クラスの園児たちが踊っている。幼児クラスは3・4・5歳の3クラスあり、全員が園庭に出て踊る姿はとてもかわいい。
古いラジカセから流れている音楽は童謡よりも、歌謡曲が多かったりする。
―先生の趣味なのかな…。
寒さなんて、子どもには関係ないのだろう。満面の笑顔で踊っている。
乳児クラスは0歳から2歳までで、成長によってクラスが分かれている。小さな乳児達は夕方になるとテラスに出ている。
テラスといっても、建物と園庭の間を木の枠で囲ってあるだけの空間なのだが、日当たりが良く、とても気持ち良さそうな場所だ。
園庭に面したそのテラスでは、乳児クラスの子たちが、園庭の様子を見ながら一緒に体を揺らしたり、知っている歌を歌ったりしている。大きな口を開けて歌う様子は、エサをねだる小鳥のよう。
妹の千恵は、体が小さいためみんなの中に埋もれてしまっているが、声が大きいので見つけやすい。
「千恵ちゃん。」
園庭から声をかけると、テラスを壊しそうな勢いで、木の柵に体当たりしてくる。
「かーちゃーん!!」
私の顔を見て、ドスドスとスキップらしき足取りで、ガハハと大笑いしている。
「先にお兄ちゃんのお迎えするから、まだ待っててね。」
乳児クラスの先生に軽くあいさつをし、次に園庭の竜輝を探す。
竜輝はチビのため先生のすぐ前で踊っているか、もしくは輪からはずれて砂場で一人遊びしていることが多い。
千恵と違って目立たないため、いつもどこにいるんだろうと必死に探すのだが、結局竜輝のほうが先に私を見つけて飛びついてくる。
私に向かって猛ダッシュで駆け寄り、ピョンと飛びついた勢いでぐるりと一回転。
ドラマに出てくる、遠距離恋愛をしている彼女のようで、笑ってしまう。
けれど、今日はいつもと違った。
なかなか竜輝と出会えれない。
踊りの中にもいない。大好きな砂場にもいない。
そんなに大きな園庭ではない、一目で全体を見渡せる大きさだ。
「おかしいなぁ。」
そろそろ竜輝のほうから私を見つけてくれてもいいのに。飛びついてくる気配もない。
とりあえず、年中さんの靴箱をのぞきに、園の建物に入ってみた。