自転車と淡い初恋
「それじゃあ、またね」
俺の学校の前で泉は足をとめ、にこっと微笑んだ。
俺だけに向けられるその笑顔にぐっと息を呑んだ。
「あ、おい!」
思わず声をかけた。
「?」
泉は歩きかけた足をとめ、首をかしげる。
正直、このまま別れるのが、勿体無く思えてしまった。
(…やべー、思わず呼び止めちまった)
「あのさ、家まで送ってやるから、ちょっと待ってろ」
「え?」
「俺のチャリ、とってくるからっ、そこで待ってろ!」
俺はそう言うと、泉の返事を待たずに駐輪場へ走った。
俺らしくないって、そんなこと十分に分かっていた。
ちょっとかわいいヤツが近くにいるから、何、舞い上がってんのって感じ。
でも、浮き足立ってる自分に、嫌な感じはしなかった。