むべやまかぜを 風雲エターナルラブ編2
生意気な小娘は適当に頷いた。そして、そこで席を立った。セルフサービスのチェーン店である。黙っていたのでは何も出てこない。
「アネキ、何、飲む?」
妹は言い、財布を出そうとする大井弘子を制した。
「ああ、いいよ。この前、オカジーから貰った原稿料、あるから。たまには私が出すよ。何がいい?」
「それだったら、アイスティを。ミルクと砂糖をつけて」
「了解」
丸山花世はカウンターに向かいながら、いろいろと彼女なりに頭の中で整理をしている。
――市原。そいつは酒を呑みながら仕事の話をするような奴。
もちろん、それは『感心しない』ことではうあっても『最悪』ではない。
?正しい ?間違っていない ?正しくない ?間違っている
という四段階で言えば下から二番目。
それは、せいぜいが『まあ許される』という程度のものでしかない。
「……」
丸山花世には、昨日会ったばかり三神という男の会話も思い出される。三神という男はおかしな人間であるが、おかしいからこそ信用できるということもあるのだ。
――三神のにーちゃんは、キンダーの同僚をあんまり好いていなかったみたいだったし……。
かつての上司である市原に対しても、三神は高い評価をしているようすでもない。
――越田ってイラストのことは聞いたけど……もうちっと市原って奴のことを聞いときゃよかったな。
昨日の今日。突然の打ち合わせ。
――やっぱ順当に言って、三神のにーちゃんが『大井を使いますよー』って市原に伝えて、それで、市原って人が焦って、アネキに連絡してきたって、そんな感じだよな。
かつての部下と上司。でも今は権利を供給してくれる会社の社員と、下請けの社員。いつの間にか立場は逆転している。
――なんかメンドーなことになってきたな……。
ただ作品を作れればそれでいいのではないのか。ただ、楽しく作品に関われればそれでいいのでしはないのか。作り手は、ただ、それだけでいいのではないのか。人間関係であるとか、売り上げであるとか、受注本数とか広告費とか……そんなことは本来的にはどうでもいいことではないのか。
「……なんか、すっきりしねーんだよなー」
丸山花世は呟き、カウンターでアイスティを二つ受け取る。ひとつはミルク。もうひとつレモン。砂糖は多めに貰う。そして。
作品名:むべやまかぜを 風雲エターナルラブ編2 作家名:黄支亮