むべやまかぜを 風雲エターナルラブ編2
店先には打ち合わせの相手となるような人物は見当たらない。
「分かりました。先に店で待っています」
大井弘子はそのように言って携帯電話を切った。
「遅れてんの?」
「そうね。今、渋谷ですって」
「ふーん。ま、それだったらすぐか」
「先に入って待ってましょう」
大井弘子は妹を促した。丸山花世もそのまま店に入る。三時過ぎの店内は外の暑さを嫌ってか。案外に混んでいる。大井弘子は窓際の席に座り、妹は姉の隣の椅子に腰を下ろした。
「ねえ、アネキ、なんで、この店を選んだのさ?」
もう少し、ゆっくりと話せる店もあるだろうに。
「恵比寿周辺で私が知っているお店がここだけだったから」
「ふーん……」
大井弘子は続ける。
「最初は、向こうの人、どこかで呑みながら打ち合わせをしようってそういうことだったのね」
「呑みながら、か……」
大井弘子が暗い顔をしている理由を丸山花世も理解する。
「酒呑みながら打ち合わせ……時々聞くよね、そういうプロデューサー」
酒の席で打ち合わせ。それは……褒められたことではない。
「重要事項決めるのに呑みながらって、どーかしてるよな……」
場合によっては億の金が動く仕事。それを呑みながら、アルコールで鈍った頭で打ち合わせ。それは危ういこと。
「……」
「……」
姉妹は共通の認識がある。
「話が決まってから呑みっていうのは悪くないけど、話が定まる前にビールっていうのは……ダメな打ち合わせのパターンだよなあ」
ダメな打ち合わせを嬉々として行う。そういう人間が明敏であるとかいうと多分そうではない。と、いうか、そやつらはすでに一度倒産劇を経験しているのだ。
「お酒が入るとだらしなくなるから……だから、どこか喫茶店でやろうということになって、それで、ここになったってわけ。まあ、直接そういうと角が立つから『お店があって夜出られないから』ってそういうことを言ったんだけれど」
「ふーん……で、来るのは? 市原っていう人?」
「そうね」
「越田っていう人は?」
先日、三神によってダメだしをされていた原画家。丸山花世としてはそいつの顔を拝んでみたいと思っていたのだが……。
「いいえ。いらっしゃるのは市原さんだけみたいね」
「ふーん」
作品名:むべやまかぜを 風雲エターナルラブ編2 作家名:黄支亮