むべやまかぜを 風雲エターナルラブ編2
丸山花世は姉が店に行っている間中、一人でずっと初代エターを攻略していたのだ。基本的にはボタンを押しっぱなし。時々選択が現れて、物語が分岐。
「うーん……なんかなあ……」
生意気な小娘は顔色が冴えない。
「……あんまり面白くねーっつーか」
無印エター。悪くはない。何も悪くはないのだ。だが……物事を知りすぎている丸山花世には通用しない。オタクの夢想。都合のよい話。
「なんかさー……三十年ぐらい前のメロドラマでもこんなのねーっつーか……」
さまざまな障害。主人公を襲う不幸。心の傷。そして少女たちとの出会い……それはそれでいいのだが……。
丸山花世のすぐそばには廉価版エターのパッケージが転がっている。パッケージ裏にはユーザーの声がプリントされている。
――最高に泣ける話です! 自営業二十九歳
――僕の人生変わりました! 学生十八歳
「こんなんで人生変わるのか……泣きてーのはてめーじゃなくて、てめーの親御さんだろうよ……」
丸山花世は疲れたように頭を振った。
「苦難を乗り越え、過去を乗り越えて美少女と結ばれる……か」
それは夢物語。そんなことはありえないお話。
「今の美少女、他人の苦労につきあったりしねーっつーの」
小娘はぼやいた。
美少女は基本、ちやほやされて育つ。ちやほやされて育った人間は基本、我慢ができないし、またする必要も無い。そんな人間が取り立てて優秀でもなければ金が有るわけでないどうでもいい青年のために献身的な努力をするか? そんな話を現実としてプレイヤーは聞いたことがあるのか?
「だいたいどんな美少女もあっという間にオバハンになっちまうんだよ……」
丸山花世はぼやく。
「……甘えんなよなー。物語に」
作品は決して甘いものではない。娯楽だから、金を出しているのだから楽しませろという理屈は一方で正しい。だが、楽しいだけの作品、美しいだけの物語はいつか必ず読み手に復讐をするのだ。
「それになー……ちょっと気になるんだよなー」
物書きヤクザは呻いた。
「まあ……これは好みの問題なんだけれど……」
作品名:むべやまかぜを 風雲エターナルラブ編2 作家名:黄支亮