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むべやまかぜを 風雲エターナルラブ編2

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 ――ちょっとよく分からんおっさんだな……。
 そつはない。でも、それだけ。何か、市原という男には何か大事なものが欠けている。だからこそ会社は倒産したのか……。
 「大井さんたちはとりあえずプロットを作ってください。で、それをこちらに送ってください」
 「……」
 丸山花世は目の前にいる中年男になんともいえない視線を送る。
 「こちらでそれを見て、それから製作に入っていただきます」
 大井弘子は小さく頷いて言った。
 「分かりました……」
 姉の視線は市原の顔の上。表情のその裏、さらにその裏を読もうとする不思議な視線。感受性の強い人間は、大井弘子が時々見せるその視線に居心地の悪さを感じるのだ。市原は、だが、美人の視線に何も感じていないようである。
 「できれば、三万本は行きたいんですよね。エターの六は。最低でも三万本……」
 三神も同じことを言っていた。小娘は市原ののほほんとした表情を見ながら、三神の言葉を思い出す。
 ――一万五千がやっとでしょう。
 三神はそう計算していたが……。そして丸山花世は市原の何の根拠もない希望的な観測ではなく、昨日会った変わり者の悲観論にむしろ共感する。
 「本当に……三万なんて行くの?」
 おめでたい市原の希望に、物書きヤクザは率直に訊ねた。
 「まあ大丈夫でしょう。前回のカーテンコールがアペンドのストーリーだったにも関わらず二万行きましたから。六は三万本は堅いでしょう。なんといっても大井一矢さんのシナリオですし……」
 「でも原画は越田って人なんでしょう?」
 丸山花世は言った。予備知識はすでに昨日仕入れている。
 「ええ、そうですが……」
 市原は言葉のおしまいを曖昧に濁した。
 「……ともちかっていう人から越田っていう人に原画の人、変わってるんでしょ?」
 「そうですが……」
 市原はどうも丸山花世の言わんとすることを少しだけ理解したようである。
 「……三連敗している奴に現場任せていいの?」
 丸山花世はずばりと言った。
 「……いや、それは……まあそうなんですが……」
 市原はぶつぶつと言った。腐敗した沼底からあがってくるメタンガスの泡のようである。
 「今から、変更というわけにもいきませんし……」