むべやまかぜを 風雲エターナルラブ編2
「っていうか、これ、販売、キンダーガーデンじゃないんだ。潰れたから?
「いいえ。それは廉価版です」
大井弘子は市原と妹の会話に神経を集中させている。すでに作品を作る製作モードに入っているのだろう。作品は人生の交差点。作品は人。人生。作品は市原の一部だが、同時に、市原こそが作品の一部。
魂を削れ。
プロデューサー殿は言った。その魂には当然、市原の魂も含まれるのだ。そのことを市原は理解していないかもしれないが……。
「古くなった作品の権利はどんどん売り飛ばしていくんですよ」
市原はこともなげに言い、丸山花世は珍しく唖然としている。
「え、ええと……権利、売り飛ばすの?」
「ええ。持ってて仕方ないですから」
市原ははっきりと言った。
「仕方ないって……あんた……」
権利は大事なもの。そう簡単に売っていいのか。と、いうか自分たちが作った作品を『売り飛ばす』などという表現おかしくないか? たとえば、不幸にして夭折した龍川綾二が、自分の作品の権利を、
『売り飛ばしましたから』
などと簡単に言うだろうか? そんなことは絶対に言わない。自分が作ったもの。我が子同然の作品。売り飛ばすなどということはありえないし、まず、著作権を売り払おうという考えに思い至らないはず。それならば、死んだほうがまし。だが市原は言うのだ。
『持ってても仕方がないから』
「ただ寝かしておいてもお金になりませんから、古くなったものはどんどん売って、廉価版にしていくんですよ。ゲームは」
「えーと、それは……」
小娘は戸惑っている。
確かにそうなのだろう。ゲームの世界ではそれが当たり前。
だが……それでいいのか。そんなドライに、二束三文で廃品回収に出すような口調で、いいのか。
――自分が関わった作品に愛ってねーのかな、こいつ……。
何かが……何かがかみ合わない。作り手としてもそうだし、それ以前に人としても何かがおかしい。何かが。
――こいつは……おかしいんじゃないか?
丸山花世は危惧している。危惧する小娘の耳朶に、昨日会ったばかりの変わった男の言葉が蘇ってくる。
――彼らが私に我慢がならなかったように、私も彼らに我慢がならなかったからです
三神はそのようなことを言っていた。
作品名:むべやまかぜを 風雲エターナルラブ編2 作家名:黄支亮