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むべやまかぜを 風雲エターナルラブ編2

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 「ああ、そうだ、ここはセルフサービスですね?」
 市原は言った。そんなに悪い人間には見えない。他人との会話もできるし、外見はともかくまともな人間……。
 「僕も、何か、注文してきましょう……ちょっとお時間ください。話はその後ということで……」
 市原はそう言って大井姉妹のそばから離れていった。
 「花世……どう思う?」
 大井弘子は妹に尋ねる。どう思うとは……多分、市原のことだろう。明敏な大井弘子は妹の直感を信頼しているのだ。 
 「どうかね……外見はちゃらいけど、まあ、編プロとかにいそうなタイプだよね。ゲームオタクって感じじゃねーな……」
 丸山花世はそう言いながら、市原からもらった名刺を眺める。
 「……」
 「どうかした?」
 「いや、うん……」
 ちょっと引っかかるもの。けれど、それは目に見えて大きな異常ではない。小娘はそれとなく振り返って市原の様子を見やる。エグゼクティブプロデューサー殿はカウンターで受け取ったアイスコーヒーを持ってこちらに戻ってくるところであった。
 「アネキ……いや、あとででいいや……」
 小娘が気になったのはとても瑣末なこと。どうでもいいこと。だが……もしかしたらそれは市原という男を読み解く糸口。ほころびはテーブルの上に放置された市原の名詞。名刺に刷られたメールアドレス。
 ――ichihara.FMB@16CC
 丸山花世は思っている。
 ――FMB、ね。自分が潰した会社の名前……。
 自分が潰した、自分が社長だった会社のネームをそのまま名刺に使っている。それは、
 ――俺は社長だったんだ!
 という負け犬の遠吠えにも見えるし、
 ――いつか見ておれ。
 というごまめの歯軋りにも見える。
 どちらにせよ、髭の中年男は未練を持って生きている。昨日は昨日と過去を清算して新たに道を歩き出したわけではないということ。
 ――面従腹背の腹に一物って奴か?
 新たな会社に引き取られはした。けれど、そのことを本当にありがたいとは思っていない。上層部に対する反発心。その発露がメールアドレスの、
 ――FMB。
 という三文字。本当に自分の運命を受け入れたのであれば、自分が潰した会社のことを名刺に残したりはしないのではないか。