とある夜と、兄と妹
「で、そのプチ家出とやつはいつまで続くんだよ」
「決めてない……」
「あっそ。じゃあさ、オレんちくれば?」
「え?」
僕はまじまじと日渡の顔を見た。下から見上げられているせいで、なんかガンつけられているような気がする。つけてるのかつけてないのかは僕はわからないが、つけてないことにする。その方が嬉しいので。
「や……でも、迷惑だろ。親とか」
「オレんち母ちゃんしかいねーし。母ちゃんも仕事行ってる。お水だから」
「お水……」
「おにいちゃんのママ、おみずなの?」
妹が小首を傾げると、日渡はギャハハと笑った。
「うん。めっちゃきれーなお水なんだよ、オレのママは。ミネラルウォーターだよ」
妹よ……どうかそのまま綺麗に成長してくれ。
「来いよ。お前一人だったら別にほっとくけどさ、妹一緒にいたら立ち去れねーだろ」
「日渡……お前は良いワルだったんだな……」
「ワルじゃねっつの。ちょっとやんちゃなだけなんですーオレは。男の子はかくあるべきなんですー」
日渡は、僕ではなく妹の顔を見た。
「さおりちゃん、オレの家、くる? 公園はさ、昼間に遊ぶ方が楽しいよな」
妹は困ったように顔をもにゅっとさせて僕の顔を見た。
「さぁちゃん、こうえんすきだよ?」
健気すぎる……なんで四つでこんだけ人のことを考えられるんだ。まじ、あの大人たちに見せてやりたいこの姿。
「オレ、なんか今なきそーんなった」
「……僕なんて、結構前から泣きそうだよ」
僕たちの家出先は、公園から日渡の家になった。これで妹は非行に走らないだろう、きっと。