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しっぽ物語 2.人魚姫

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 引き攣れた微笑を口元に浮かべ、握り締める手に力を込める。
「だが、貴女が望むのならば」
「ファーザー」
 飛び出した頬骨を一度枕へ打ち付け、老女は喘いだ。
「お聞きしたいのです」
「なにをだね」
「わたしは、つみ深い人間です」
 一つずつ切れ切れに言葉が発せられるたび、Bは頷いた。まさに沈まんとする夕日が背を照らす。あれほど疎ましかった橙色は今、神の御心を伝える情熱の炎となって、Bの心を燃えたたせた。
「告白を」
 上擦った声でBは命じた。
「今、貴女の魂は救いを求めている」
 何も知らず、老女はもう片方の掌もBの手の甲に重ねた。点滴の管が一本抜け、シーツに鮮血が流れる。
「夫は、女と出て行きました」
 半分近く閉じられ、皺やたるみと同化した彼女の瞼の奥にも、異様なきらめきが見える。
「30年前に」
「許すのだ」
 深く息を吸い込み、かさついた皮膚を慈しむように掌で触れる。
「それは神が与えたもうた試練なのだから」
「もう、憎くはありません」
 やにのこびりついた目尻に、涙が滲む。
「わたしも、つみを」
「赦しを請えば、神はお許しくださる」
「わたしも、夫が出て行く前に」
 息が詰まり、咳き込む。益々赤の円を広げていく血潮に臆することなく、Bは身を乗り出した。突っかかる身の痛みなど、気にもならなかった。
「さあ」
「つみをおかしました」
「相手は」
 吐き出される息に、木枯らしのような甲高い音が混じる。苦しみに、顔色は蒼白を帯びていく。もっと苦しめ。Bは手に力を込めた。どれほど重い荷を背負わされていたとしても、私はここにいる。
「いとこです、遊びにきた」
 荒い息の中から最後、搾り出すようにそう言うと、彼女はがっくりと枕に頭を静めてしまった。上下する胸は、待つしかない。最後の時間を。医師の助けを。そして何よりも。
「貴女の罪を赦します」
 全身の慈悲を舌先に込め、Bは宣言した。老女の眼から新たに透明な水が湧き出した。
 スラックスを突き破りかねない興奮の高まりは苦しかったが、洗われた心を前にしては、全てが鳴りを潜める。
「父に感謝を」
  もう一度、穏やかな口調で言ってから、Bは彼女の手を離した。この老女を見よと、Wを連れてきて見せ付けてやりたい気分だった。こんなにも穏やかな表情を、貴方は今まで眼にしたことがあるのか。