小説が読める!投稿できる!小説家(novelist)の小説投稿コミュニティ!

二次創作小説 https://2.novelist.jp/ | 官能小説 https://r18.novelist.jp/
オンライン小説投稿サイト「novelist.jp(ノベリスト・ジェイピー)」

天秦甘栗  焼肉定食

INDEX|8ページ/9ページ|

次のページ前のページ
 

 河之内は飲んでいた冷酒を吹きそうになってしまった。
「私の趣味でしてね。各高校の名簿はほとんど手にしているんですよ。まあ、あなたでも無理すれば守備範囲ですが、弟さんの方が好みなんで、一度ご紹介して頂きたいなあと思いましてー、ハハハ…」
 河之内はピキッと凍り、残りの4人は、ウワアーッと後退さった。
「今はやりのモーホー野郎?」
 代表して天宮がみんなの意見を口にした。それを聞いて、キョトンとしていた川尻は次に笑い出した。
「いやいや、違います」
 一同、ホーッと安堵の息を吐いたのだが、次の一言で凍ってしまった。
「私は美しい方なら性別は問いません。あっでも、ご心配なく。あなた方は私の守備範囲じゃありません。もちろん社長もですよ」
「天満くんだけなのね。ふつーの人は」
「俺を、あれと一緒にすんのか? 天宮」
「あれよりはましかな」
 マダムキラーで年下好きの男よりは、天満も天王寺も、ずーっと普通の人であるが、実は天宮たちも知らないおかしな奴ではあるのだ。そのことは、この後に続々と発覚し、結局自分たちの周りには、へんな人ばかりということに気付くことになる。
「つまり、実害はないけど、あぶねえー奴ってことですね、川尻さん」
「そういうことにしておきましょうか。おや、河之内さん、そんなに離れなくても、とって食いやしませんよ」
 その河之内に深町は笑いかけて、「河之内は、川尻さんの守備範囲だもんね」と言った。
「おい河之内、俺と天王寺くんの間に入れよ!」
 やさしい天満は、わざと席をずらせて開けてやって河之内を呼び寄せた。
 しかし、ここも怖いことに違いはない。前面に天宮と深町である。
「いえ、こちらで結構です」
 食べたり飲んだりが本格的になってくると、宴会状態になる。カセットで音楽をかけたりの、どんちゃん騒ぎである。天宮がニコニコと笑いつつ、「河之内、踊って」と命じ、カセットをながした。河之内も飲んではいるが恥ずかしい。それに音楽は、沖縄民謡である。
「よう、こんなカセット持ってるなあ」
「趣味よ、趣味!! ホラ、河之内、手をあげて!!」
 天宮も少々酔っているので眼が怖い。仕方なく立ち上がって、デタラメに手を振っている。
「足で、リズムとらなあ」
 ついでに深町のcheckが入る。あんまりにも下手っぴーなので、とうとう天宮が立ち上がって踊り出した。こちらもデタラメには違いないが、どううに入っている。それを見て天王寺がおもてに走り出し、ハンディカラオケを持って来た。
「次は俺の歌じゃーっ!!」
 天宮のカセットを止めて、いきなりB´Zを歌い始めた。
「いつも持ち歩いてんの? 天王寺」
「おう、けっこうおもろいんやでー」
 天宮の質問に答えつつ、天王寺は何曲か熱唱する。それではと川尻と天満も自分の車からカセットを持って来て、ハンディカラオケに入れて変わりばんこに歌う。天満はわりかしポピュラーで、チャゲ&飛鳥やシャ乱Qなど、はやりのものを一通り歌った。次に川尻は、とーっても嫌味に洋楽である。ビートルズからローリングストーン、ポリスと英語onlyである。また次が天王寺で、今度はぐっとしぶい安部恭弘を歌った。途中で深町と天宮が、「山本まさゆきTime!!」と超オタッキな曲を歌うが、意外にも天満と川尻がのってきた。
「やりますねー、川尻さん」
「そちらこそ」
「次は「ジリオンのピュアストーン」!!」
 天満がアニメに流れ、つづく川尻もこれまた「バイファム」のオープニングとくるが、これも英語なのである。
「受けてたとうじゃない。ねえ、えりどん」
 川尻の英語曲に対抗して、天宮がSTXの「Mr.Robot」深町の「Let´s it be」が続いた。そんな調子で宴会は夕刻近くまで続いた。みんなが、カラオケの奪い合いをしている間に、河之内はこっそり抜け出して畑の世話をしていたことは誰も知らない。
さすがに持ちネタが切れてきた天満が、「まいったあー」とハンディカラオオケを川尻に渡した。最後の悪あがきとばかりにいきなり「天城越え」が出た。これで全員が「やめれー」と叫び、やっとハンディカラオケはお開きになった。すでに7時を回っている。
「もうしばらく歌はいいっていうくらいに歌ったね、えりどん」
「ほんまやー、鍋もきれいになくなったし、ぼちぼちコーヒーですか?天宮」
 深町が七輪にスミを足して、やかんをかけた。ちゃんとガスもあるのだが、こちらの方が味わいがある。
「沸くまで、ちょっと腹ごなししようや!」
 天王寺が立ち上がって、おもてへ出ると言い出した。何事だろうと思いつつ、全員(河之内も一応おります)が立ち上がって、天王寺について外へと出た。天王寺は、車から何やら取ってきた。
「やっぱりシメはこれやな!」
 なんとそれは花火だった。もう冬だというのに季節を完全に無視した言葉である。
「すいませーん、今、冬なんですけど、天王寺さん」
「かまへんかまへん。はいはいみなさん、これ持って」
 深町の素朴な疑問を無視して、天王寺は長い棒のついた花火を全員に渡し、自分は何本かのローソクに火をつけて設置した。なんだかんだと言いつつは、みんなけっこう楽しんだ。花火なんぞ、そうそうすることもないので、寒いながらも、これはこれで楽しい。全員が、ワキャワキャと花火をしている側で、天王寺はローソクに近寄って花火に火をつけ、皆がいる方に「ほら行くでえ!!」と投げた。ねずみ花火である。平らなアスファルトの上をクルクルとよく回るねずみ花火は固まって花火をしていた天王寺以外のものの足元にやって来た。キャーとかドエーなどという声とともに、固まりは割れて四方八方に飛び散った。それも、ひとつでなく次々とやって来るし、行き先はねずみ花火しか知らない。パンパンと足元ではぜる花火に、おたおたとしている間に次がやって来る。
「バーロー!! 天王寺!! てめえー」
 天宮が怒って天王寺に近付こうとしたが、「次は上空や!!」と花火を投げると、ものすごい勢いで花火が空に上がり、天宮に向かってきた。慌てて反転して天宮が走り出した。花火は風に乗って、皆のいる方向にやって来る。ひゃあーと全員が走り出した。天宮家の前には、街灯以外の明りはない。アルファルトは少し先でジャリ道に変わる。しかしそこは、まったくの闇である。足元に何があるかは分からない。しかし皆は一目散に闇の中へ走った。途中で、パンと音がして花火が終わった。ヒーヒーと息を切りながら天宮や深町たちが天王寺のほうへ戻っていく。ニヤニヤしながら天王寺の方へ戻って行く。ニヤニヤしながら天王寺が次々に点火をしたが、今度は天王寺の方に流れていった。慌てて天王寺が走る。そこですかさず天満がそのフライング花火に火をつけて投げたが、今度は天宮たちの方に飛んでくる。
「天満くんのとんま野郎ー!!」
 ゼーハーゼーハと走りながら深町が隣の天満に怒鳴りつけた。天満も「ごめんごめん」と言いつつ走っている。戻って来た天王寺が追いうちをかけるように、次々とフライング花火に火をつけて投げる。置く方向によっては不発もあるらしく、そのまま地上で火をふいているものもある。
「二度と天王寺に花火させんのはやめような! えりどん」
作品名:天秦甘栗  焼肉定食 作家名:篠義