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天秦甘栗  焼肉定食

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 天宮は、クネクネのS字を一気に直線に走った。パジェロならではの技である。道ではないところを走ってしまったのだ。カーブでブレーキを踏んだ。天王寺が、どわーっと大声を上げた。いきなりパジェロが横に現れたからである。ジャリ道ではない部分を軽くバウンドして、パジェロはカーブひとつを無視した。さすがに助手席の川尻も、どひゃーと声をあげた。
 スピードを緩めもせずに、カーブに突っ込んだからである。
「無茶しますねえー、失敗したら心中ですよ」
「失敗なんかしないよーだ! あんまりしゃべってると舌噛むよ、川尻」
 キレている天宮は、川尻も呼び捨てで、さらにスピードをあげた。ガタガタと振動が激しくなる。
「おー、これぞ4WDーでえー」
 注意されたのに、川尻はまたしゃべろうとして本当に舌を噛んだ。また天宮が大笑いする。あとはコルベットをブロックしてしまえば勝ちである。
 さて、レース後半に参加した天満もコルベットにせまった。しかしこちらは道を熟知していないので、天宮のような大技は使わないが、背後からパッシングの嵐をコルベットに見舞う。パジェロが本気を出しているので、さすがにコルベットもついていけず、さらにプラドの猛追を食う結果になってしまった。
「天王寺さん、うしろクラクション鳴らしてるけど」
「おおきに!! 天満」
 天王寺もブロックで、プラドを押さえ込むのが精一杯である。ものすごいレース展開であったが、一番は天宮が取った。車から降りても、川尻はまだハヒハヒと舌を口から出している。おもいっきり噛んでしまったらしい。
「今のはショートカットやぞ!! 天宮」
 車から降りた天王寺が、天宮のところに行って文句を言った。
「えっ? そう? 山道レースだもん。どこ走ってもいいって言ったでしょ? ズルじゃないよ」
「うん、あれはまともだよね」
 深町も賛同する。川尻は抜いたとこは見ていたが、証言しようにもハヒハイ状態でしゃべれない。
「くっそーっっ!! 1勝1敗かっっ!! 悔しいなあ」
「でもー、すーっとした。おもしろかったね。またやろうよ天王寺」
「俺も4WDにするわ。それでないと、おもろない」
「俺も今度は参加しようかなあ」
 天満は、自分が意外と上手であることに気付いたらしい。天王寺に言わせれば上手なんてものではなく、天宮より上かもしれないと言うだろう。
「どーする? もう1回やるか?」
「もーいいやっ!」
「んーだら、罰ゲームはどうすんねん?」
「どっちも1回負けたから、両方罰かな」
 天宮が素直に負けを認めた。疲れたんやなと深町は笑っている。天宮は1回キレてしまうとフルパワーになってしまうので、消耗も激しい。元気だったら必ずケリをつけるであろう。
「ほなら、おまえ、俺のコーディネイトの服を着るんやな」
 キシシ…と天王寺は笑った。よからぬコーディネイトを考えたらしい。
「もしもし、天王寺」
 その笑いが異常なので、天宮と深町は突っ込みを入れたが、きいちゃいねーのである。
「うちはテレビがほしいんだけどー、天王寺」
「テレビ?! 俺はグッチかシャネルって言うたんやが」
「なんでもいいって言ったもん」
「えーけどなあ。そんなんでえーんかあ?」
 グッチやシャネルといえば、十万台である。それをなんでもと言ったからには、天王寺は50万はかかると予想したのに、テレビなんぞ10万もあれば買える。
「そんなんやったら、コーディネイトできひんやんけ」
「何を想像してたの?」
「金貨をやなあ、ベストに編み込んで、キンキラのいやなおじょーさまっていうのを考えてたんや」
「ばかものー、却下」
 天宮は天王寺にケリを入れて、プンプンしながら愛車に向かった。深町は全員に、「うちで鍋でもしようよ」と声をかけて、パジェロに乗り込んだ。
 それを合図に、全員が天宮家に戻った。
天宮家に戻って、全員で鍋の準備をした。この家では客は、天宮と深町がそう決定した場合のみで、天満も天王寺も川尻も、まして河之内などは客と認められていない。
「好き嫌いのある人?」
 深町が鍋を始める段になって尋ねた。川尻と天王寺が手をあげる。
「俺、魚あかんのや」
「入ってない入ってない、はい川尻さんは?」
「私くし、まずいものはー、少々困ります」
 それには天宮がザブトンを投げつけた。却下である。そこへ玄関から声がした。キノコ屋のおばさんである。
「天ちゃーん、えりちゃーん、おすそわけ」
「なになに? おばちゃん」
「おもちついたからね。それより旦那さんは?」
 おばさんは玄関から中をうかがった。天宮家にたくさん人が来ているので、もしや天宮の旦那も来ているのでは、とていさつに来たらしい。
「今日は来てないの」
 天宮が、もちを両手に首を振った。おばさんは、なあーんだと笑った。そして、ひょこっと玄関から奥をのぞいた。
「うわあーいい男ばっかりねー。てんちゃん」
「えっ?!」
 深町と天宮は、同時に発言した。はっきり言って、へんな奴ばかりだというのに、おばさんは外見上の判断をした。
「おばちゃん、上がって話したらいい男じゃないことが分かるよ」
「いやあーねえ、えりちゃん、おばさん化粧もしてないのに」
 んじゃ、私の旦那がいたらどうしたわけ? と天宮は思ったが、口にはしなかった。逆に、どれが好み? と尋ねてみた。
「そうねえ、あのネクタイしてる人なんていいねえ」
「おじさんと全然ちゃうねんけど」
「見た目よ! 見た目。さてさて、てんちゃんの旦那がいないなら帰るわ。じゃあね」
 パタパタと軽トラで、おばちゃんは帰って行った。二人は手を振りながら、「川尻さんって、マダムキラーってやつ?」「んだね」と言い合った。あのしゃべり口調って、そう言われてみればマダム受けはいいかもしれない。
 そこで、ふと深町は気付いたことを口にした。
「したらさあ、河之内のしゃべり方もそうちゃうの?」
「あー、確かに。でも河之内は、おバカさんだから」
「なるほど」
 おかしな納得をしていると、奥から鍋奉行天王寺のお声がかっかった。
「ほっといて食うぞお!! おまえらあ」
「誰のうちやねん! ここは!」
 天王寺の声に一言突っ込んでから、二人は玄関を閉めて奥に入った。
 今日は河之内も食卓の片隅に座っている。4人も野郎がいるので、七輪と鍋を2つずつ用意して、片方を寄せ鍋にして、片方を湯豆腐にした。この七輪を囲むように、6人が座って食事をする。湯豆腐の方は少し火をおとしてあるので手はかからない。寄せ鍋の方は天王寺が意外にまめなので、彼がひとりで取り仕切っている。
「ほら、煮えてるから、はよ取ってくれ」
「慌ただしいなあ、天王寺」
 天満と天王寺と深町、天宮は寄せ鍋をがっついているのだが、川尻と河之内は人気の少ない湯豆腐の方に陣取っている。どこから取り出したのか、川尻は地酒を冷でやっている。
「河之内さん」
 いい気げんになってきた川尻は、横でもそもそと湯豆腐を食べている河之内に一杯ついで手渡した。
「あなたの弟さん、今18ですねえ。どこの大学へ入られるんですか?」
「はあ?!」
「今の高校もいいですから、恐らくは国公立ですか?それとも外国ですか?」
「どっ、どうしてそれを」
作品名:天秦甘栗  焼肉定食 作家名:篠義