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天秦甘栗  焼肉定食

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 わだちの低くなったところで、天宮がコルベットを追い抜いてトップを奪った。そしてそのまま深町が右のドアミラーで天王寺をチェックして、ガードして頂上の空き地まで上ったのだが、天宮が天満から本をもらってバックしてUターンをしていると、後続の天王寺は本をもらって、スピンターンをして、クルリと向きを変えてUターンした。しまったあーと、天宮が思った時にはもう遅い。天王寺はどんどん前を進んでいく。
「くそーっ!!」
 天宮は車で怒鳴っているが、天王寺のほうも大騒ぎである。河之内が笑っているのだ。あまりの恐怖で、あの世に行ってしまっているらしい。
「おいっ!! そこの兄ちゃん!!」
 そう言いつつも、後ろから天宮が追っているし、ガンガンカーブを切る。すると、この世のものではない河之内の笑い声が響く。
車をテクニックで走らせたことのない河之内には、スピードと横Gがもう怖くて仕方ないのだ。とくに天王寺は昔、レースをしていただけあって、タイヤの使い方がまるで違う。タイヤの横すべりも計算して走っているので、通常の走り屋の比ではない。天宮が後ろからパッシングして抜こうとするのだが、また、わだちの深いところに来てしまって車がロデオのように、たこゆれしている。こちらの助手席は楽しいらしく、「いけー!」だの「おもしろーいっっ!!」という楽しい雰囲気である。
「うるさいわーいっっ!!」
「負けんで、天宮」
 深町が大笑いしたところで、天王寺がトップを守り抜いてゴールした。
「なあーんだ、天宮さん、あのままかあー」
 天満が降りてきて結果を聞いてつまらなそうに車を降りた。
「それより天満くん、この兄ちゃんおかしなったんやけど」
 天王寺がコルベットの助手席でヘラヘラしている河之内を指さした。
「いじめたんちゃうの、天王寺さん」
 同じようにディアブロの助手席に乗っていた深町は、楽しそうにピョンピョンはねている。精神科医の天満は助手席の河之内をおもてに引きずり出した。
「あー、いっちゃってるねえー、鎮静剤でもあれば大丈夫なんだけど」
 慌てもせず、天満はそう診断を下した。
「じゃ、これをどうぞ」
 川尻は車のダッシュボードから、バーボンのミニビンを取り出して天満に渡した。
「興奮剤なんですけどねえー、川尻さん」
 笑いながら、天満は河之内に飲ませた。ふた口ほど飲んで、河之内がブハーッとバーボンを吐き出した。
「あっ、戻ったみたい」
 深町が河之内に呼びかけると、「もう勘弁して下さい」と座り込んで頭を下げた。こりたらしい。
「それより天宮、ディアブロの足元ボロボロになってるぞ」
 車を一回りした天王寺が、ディアブロの惨劇を天宮に教えた。天宮も下まわりに眼をやった。確かにバンパーの下がボロボロに割れている。
「ほんとー、河之内」
「はいっっ!!」
「車の修理代は請求してねー。とりあえず、2回戦する?」
「ええよ」
「じゃ、真打ち登場といこうかっっ!!」
 天宮は、足元がボロボロのディアブロに乗って、一旦、天宮家に車を入れ替えにおりた。
「ずっこいで、自分ら」
 天王寺は、残っている深町に笑いかけた。深町がブロックを助けていたことを知っているのだ。
「そういう天王寺さんかて、素人相手にスピンターン使ったやんか」
「それは土地の利を知っているということでチャラや。次は自分の愛車やから、深町さんはこっちに来てもらわんとわりがあわん」
「でも、天宮のとこには誰が乗んの?」
 クルリと二人は見回したが、河之内は失格してしまったから、残るは天満と川尻である。
「天満くんかなあ」
 のんびりと河之内の側に座って気分を落ち着かしている天満で、二人の眼は止まった。
「まあ、妥当やあ」
 天王寺も、それで手を打つつもりだった。しかし、意外な伏兵が名乗りをあげた。川尻である。ぜひとも、自分を天宮の助手席に乗せてほしいと言い出した。
「でもなあ、ひどいで、レースは。河之内のようになるんちがうんか? 川尻さん」
「なにをおっしゃいます、天王寺さん。私くしの空飛ぶスリッパの川尻というあだ名は、だてじゃありませんよ」
「あのロータスがスリッパ?」
「ナイスネーミングや!」
 天宮は、一度お手合わせしているので川尻の腕はよく知っている。恐らく天王寺と同じくらいの運転技術だろうということは分かっているが、このペチャラペチャラとしゃべる奴が横に乗るとなると、本人もどうなるか自信はないなあと、戻ってきた天宮はニヤリと笑った。つまりキレてしまうかもしれないということである。
「天宮は、キレるとちょっとヤバイよ」
「ハハハ…大丈夫ですよ。さあさあやりましょう」
 深町は、キレた走りの天宮をよーく知っている。キレてしまうと、凍った道でも全速でとばしてしまう奴である。
「河之内、ハンカチ振って!!」
「はいーっ!!」
 天宮の一言で、河之内はスックと立ち上がった。もう乗らなくていいと思えば、ハンカチ振るくらい楽なもんである。再び、天満がプラドで先行した。時刻を見計らって、河之内がハンカチを振った。今度はコルベットが先行する。グルグルと山道をのぼる間にパジェロが一瞬のスキをついて先頭に立った。しかし、馬力の差はいかんともしがたい。後ろからコルベットがあおりを仕掛けている。
「私に仕掛けたやつはやらないんですか? 奥様」
 この白熱したバトルに水をさすような、のんびりした口調で川尻は尋ねた。ダッシュボードの上に足をどっかりと乗せて、すっかりくつろいでいる。
「やらねえーよっっ!!」
 天宮は、あまり無茶しちゃいけないなあと思って、コース取りもスピードも押さえていたが、これでキレてしまった。パジェロは猛然とダッシュして、コルベットを引き離しにかかった。天王寺のナビをつとめる深町は、パジェロのエンジン音でキレたことが分かった。
「天王寺さん!! 前の人キレてるから、ついていかんように」
「わーってる。また、Uターンでまきかえすから、ボチボチついてくわ」
 と言いつつも、コルベットもエンジン音がカン高くうなる。きーとらんがなあーと深町はあきれてしまった。天満はのんびりと、プラドのボンネットに腰をかけていたが、下からものすごいエンジン音が聞こえてきた。
「あっきたきた」
 ポーンとボンネットを飛び下りて、先頭のパジェロに手を振った。
「早くっ!! ちょーだい」
「慌てなくてもー、俺も、こっからレースに参戦するよ」
「好きにして」
「こらー、おまえらレース中に、なごむなー!」
 天王寺がコルベットのドアから手を差し出す。はいよと、天満は本を投げ入れて、自分も車に走った。パジェロがUターンしていると、コルベットがまたスピンターンをして一足先に下り始める。あの技、今度マスターしてやると思いながら、天宮が追いかける。
「奥様、スピンターン教えましょうか?」
 その一言が、天宮をキレさせてしまった。下りカーブをガンガン走っているコルベットに、ケッケケケーと天宮が笑った。
「まだまだ甘いわっっ!! 天王寺!!」
作品名:天秦甘栗  焼肉定食 作家名:篠義