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天秦甘栗  焼肉定食

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 天王寺が冗談まじりに天満に言うと、天満のほうは、「バリウム好きですか?」と切り返した。
「天王寺さん、コーヒー味のバリウムって、けっこういけますよ」
「いらんいらん、んなもん飲むんやったら、早死にするわ」
「なら大丈夫です。そういうことを言える人は長生きしますよ。ところで天宮さん、河之内の車がありましたけど、本人は?」
「テントで寝てるんちがう? 河之内の車が入り用だったから、テントに泊まってもらったから」
 ワイワイと雑談大会がひとしお盛り上がってから、やっとレースしようということになった。場所は林道である。
「とりあえず、コースの下見する?」
「せやな」
 天王寺と天宮は、パジェロで下見に行った。昔、木材を切り出した林道なので、トラックが通れるようにかなり広い道がついている。しかし、車を抜き去るポイントはかなり少ないコースでもある。
「おまえなあ、これってラリーの世界やないか? 天宮」
「そうだよ。これだったら、馬力よりテクニックが必要でしょう。そうでないとおもしろくないもん」
「やったろーやないか!」
「そうこないとね、天王寺」
 二人はコースとルールを決めながら、林道を上って行った。この林道のかなり山の頂上のところに、木材の切り出しをしていた広場があって、そこでUターンをして帰ってくることにした。一方、残っていた深町と川尻と天満は、河之内の話で盛り上がっていた。深町は、なぜ河之内は奴隷のような待遇に甘んじているかとてもよく知っているが、笑ってごまかしたので事実を知らない残りの2人が、いろいろ想像を述べているのだが、どれも当たっていそうなものである。
「深町さん、河之内が何かやらかして弱味でも握られてるんだろ?」
「さあねえー、当事者は天宮やからなんともー、それより天満さんって何で河之内と連れなん?」
「高校の同級性なんだ。それからずっとだけど、趣味も仕事も違うけど、妙にウマが合うんだ」
 あの高ピーな懲りない男の友人なんて、天満も相当に変わり者かもしれないと深町は思った。そこへ河之内がやって来て、「今日のご用は?」と玄関から声をかけた。
「河之内は上げてやらないの?」
 天満はそんな河之内の態度に、深町に尋ねた。
「別にいいけど、本人がいやそうなんよ」
「まあそうかなあ、誰も天敵の側には寄りたくないよなあ」
 そう言って天満が立ち上がって、河之内の方に歩いて行った。深町は別段用事がないと言うので、天満が河之内と話しに行ったのだ。
「深町さん、奥様とは学校の友人ですか?」
 川尻は、みんなのコップを片付け始めた深町に声をかけた。
「そう、高校の時のね。それより川尻さんはどうして私の名前知ってんの?秦海さんから聞いたの?」
「ええたまに、日曜の仕事の折に『今頃、深町さんが天宮の食事の世話をやいてるんだろうなあ』とおっしゃるんですよ。それに、あなととは結婚式の折にお目にかかってるんですが、覚えておられませんか?」
「さあ、あの時は人だらけで、誰が誰だとは覚えてないし」
「まあー、私くしは地味ですからねえー、覚えて頂いてないのもうなずけます。ハハハ…」
 そうかなあー、と深町が頭をかかえながら食器を下げた。


 下見から戻った天宮と天王寺は、天満と川尻を呼んで審判を頼んだ。
「川尻さんがゴールとスタートで、天満くんが折り返し地点ね。天満くんはこれをドライバーに渡してね」
 天宮は二冊のハードカバーを手渡した。この家にある天宮の蔵書の何万分の一であるが、これなら天王寺も天宮もズルは出来ない。
「天宮ー!! 私も乗せてよ」
「でも、一回目はディアブロだけど?」
「かまへんかまへん、ひさしぶりにキレた走りが味わえんねから、文句言わない」
「じゃ、うちも重荷をかけようか? 天宮」
あー、失礼じゃないっっ!! と深町は怒ったが、ちょっと考えて「河之内ー!!」と大声を出して河之内を天王寺の重荷にした。
「あのね河之内、この車貸してね。レースするから」
 やさしい天宮の声に、河之内はギクリとしてうなずいた。こばみたいとは思わないが、レースって一体、と考えつつも天王寺のコルベットの助手席に潜り込んだ。
「河之内さん。えらいごめぇーわくやろーけど、まあ我慢してや! ちゃんとシートベルトしてくれんと死ねで」
 天王寺は愛想よく河之内に声をかけて車をスタートした。まずはスタート地点まで、全員それぞれの車で向かった。
「ひょー、ロータスエタンって、えらいしぶいもん乗ってるんやなあ川尻さん。どうせならユーノスロードスターにすりゃええのに。なあ河之内さん」
「あれって、ロードスターじゃないんですか?」
「なあーにいうとるんやっっ!! あれはロータスやっっ!! おまえなあ、ディアブロ乗るほど車好きなら、それぐらい覚えとかんかあいっっ!!」
 関西人特有の鋭い突っ込みに、河之内はたじろいた。実のところ河之内は車にそれほど詳しくない。たまたまディアブロの限定バージョンが出たと、秘書課のものが騒いでいたので、それを買っただけである。
「おまえせやけど、ようあんなもの天宮に貸すなあ。今からラリーやっちゅうのにー、ボロボロにされるぞ」
「えっ?!」
「あっ、知らんと貸したんかいなあ。あいつの腕のほどは、よう知らんけどこんなジャリ道でやったら、足まわりいわされんのは眼に見えてる」
 やめてもらえばと天王寺は言ったが、河之内は首を横に振った。今更、やめてくれなどと言えるはずもない。
「もしかして、レースって、天王寺さんと?」
「そうや、俺はきたえてるから大丈夫やって!! うちのコルベットは、これくらいへでもない」
 ひゃあーと、河之内は泣きそうになった。レースって言うから、高速かと思っていたのに、車はどんどん山奥へ入って行く。天王寺は鼻歌まじりにステアリングを切っているが、河之内はどんどん青ざめてきた。

 林道の入り口で4台の車は止まった。
「天満くん、ずーっと上がっていって、大きな広場で待っててくれるー。でも車の置き方は考えてよ」
「了解!! じゃ、待ってるよー」
 天満はプラドで先行した。
「川尻さん、ハンカチ振って!!」
「はい奥様、では、用意!!」
 コルベットとディアブロはガンガンエンジンの回転を上げる。緊張の一瞬、微笑した川尻は、頃合を見計らってハンカチを振った。2台は同時にスタートした。ブレーキポイントを熟知した天宮に1日の長があってトップに立った。しかし、である。ディアブロは、わだちの高さで腹がすってガタピシガタピシと異音が聞こえてくる。異常な振動を起こしたディアブロっをコルベットが抜いた。それも尋常な抜き方ではない。カーブで内側から無理やり抜いたのである。助手席の河之内が悲鳴を上げるが、もうレースに集中した天王寺には聞こえない。天宮は腹を立てた。
「くっそー!! 車がわるーいー!!」
作品名:天秦甘栗  焼肉定食 作家名:篠義