小説が読める!投稿できる!小説家(novelist)の小説投稿コミュニティ!

二次創作小説 https://2.novelist.jp/ | 官能小説 https://r18.novelist.jp/
オンライン小説投稿サイト「novelist.jp(ノベリスト・ジェイピー)」

神社奇譚 1-2 古井戸

INDEX|2ページ/9ページ|

次のページ前のページ
 

  2


 仕事にやりくりをつけて私も例によって祭壇を運ぶ等の手伝いをした。
祭壇を井戸の前に設置しお供えを載せて準備を済ませる。
宮司は井戸の四隅に御幣を立て、春彦さんに井戸を覆う木の蓋を
開けるように求めると、春彦さんと業者の方二三人で分厚い板で出来た
蓋をどける。一応モーターも備えてあって今でも使えるらしいのだが
「もう長い事使っていないな」。

 井戸は開けられると、覗き込んでも水面が見えないほどに暗く深い。
石を投げ込むとなかなか音が聞こえない。・・ようやくポチャリと音がする。
随分と深いものだね。
「16mって云ってたな。落ちたら上がって来れないね、ひとりじゃ。」
あぁ、そうだよね。
直径2m程か。今思えばチリの落盤事故の救出用のトンネルよりは
広いんだが、圧迫感はたまらないものがある。

 神事自体は手練な宮司の下、厳かに壮麗に執り行われたのだが
宮司は最後に水の神について講釈した。
そして、本来あるべき井戸の埋め戻しの在り方など語り始めた。
最近は怖い映画が流行ったせいで、井戸の埋め戻しの御祓いを請ける
ことが多くなったが、実は井戸というのはそこだけでなく
その周辺一帯に広がる地下水脈について、それを領く水神さまの
御蔭に感謝しなければならない。
「井戸水の底をさらって腐敗物老廃物を取り除いて・・」
「川砂を盛って、空気抜けの穴を竹で通してやって・・。」
ということで最近では中々行なわれないが、信心深い春彦さんのこと。
若いものに地下水の底をさらってくれ、と。
云われた若いものも驚きながら、滑車を通した命綱に乗って
深さ16mの井戸に降りていった。
声をあげると反響してしまうのでトランシーバーで話をしながら
我々は彼の言葉を待った。
「地下に到着・・地下水は膝ぐらいの高さ。
底は・・砂地だけど・・なにかでかい根っこがある」と。
ということで、急遽、そのでかい根っこを井戸から出す事にした。
ロープを引っ掛けて外から滑車で引き上げる。
作品名:神社奇譚 1-2 古井戸 作家名:平岩隆