神社奇譚 1-2 古井戸
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私はひょんなことから神社の役員になった。
住宅街にある神社の役員と云うと
昔は街の名士で名誉職・・つまりはボランティアで。
今でも上の方はそういう匂いが漂う人たちばかりだ。
実際、市議会議員でもある氏子会長であるとか
商工会議所の顔役である副会長とか、
歴代町内会長だった面々が名を連ねるみたいな
強面な組織でもある。
よって不文律として女性は居ない。
飽くまで「名士」の「紳士連合」でもある。
下っ端は私のようなものばかりだが。
宮司も常勤ではないが月次祭(ツキナミサイ)にはやってくる。
月次祭には全員集まる事となり、
地域の平和と地域の人々の幸せを祈り、
その後に一般のご祈祷の補助を行なうこととなる。
いつもはひっそりとしている神社だが
この日ばかりは人が賑わう。
だが正月の混乱は落ち着き、桜も終わった頃。
それは五月の連休明けだったのかもしれない。
近所の春彦さんが神社を尋ねてきた。
「宮司さんいるかい?お願いがあってさぁ・・」
春彦さんはフリーの現場監督業(本人談)で
「働きたくなる仕事があるときだけしか働かない」という
羨ましくなるほどに豪快な人だ。
自分の家廻りのことは自分で済ませてしまえる人で
このたびは、家にある古井戸を埋め戻して自らの書斎を建築するという。
そこで井戸のお祓いを宮司に願い出てきたのだが
宮司に取り合うと、次の大安の日にでもということになった。
作品名:神社奇譚 1-2 古井戸 作家名:平岩隆