神社奇譚 1-2 古井戸
ロープを引くのに私も手伝い、余程大きなものだったのだろうか
井戸の途中で引っ掛かりながら一時間掛かりで引き上げた。
すぐさま滑車から下ろされた巨大な根っこ。
いや、とりあえず若いもんを引き上げようや!
ということで、ずぶ濡れの若いもんが地上に上がってきた。
その場に居た全員が繁々と引き上げられた巨大な根っこを観て回った。
春彦さんの奥方が家から出てきて、突然声をあげた。
「いやだ、なにコレ!」
マジマジと観ている男たちは一瞬、視線を外して。
春彦さんの奥方は驚きの余り、携帯を取り出して
「いやだ、警察?救急車?どっちを呼べばいいの?」
なんかパニック状態なので、春彦さんが奥方を落ち着かせて。
「これが・・井戸の中に・・あったの?」
誰も声を出さずに頷くだけ。それ以上の反応が出来なかった。
宮司も声が出なかった。
引き上げた巨大な根っこは、見るからに女体だった。
顔すらないものの首から下、長く滑らかな両腕
豊かな両方の乳、腰のくびれのカーヴもエロチックで。
さらに白く長く絡ませたように縺れた脚のような根は
まるで生きているかのようだった。
いや実際には・・生きているのだろう。
何の木の根っこなのかは知る由も無いが、
投げ入れたのか地下水脈を流れてきたのかは・・やはり知る由も無い。
しかし何故にここまで“女体”なのか。
春彦さんは宮司のほうを見て、ひとことだけ云った。
「宮司、どうしたらいいんだろ。」
その場に居た者全てが当惑してしまった。
「なんかえらいものが出てきてしまったな。」
最初はスケベ根性で見ていたが、
見るにつけなにか見てはいけないもののようにも思えてきた。
そこに春彦さんの奥方の見間違えたような・・遺体にも見える。
作品名:神社奇譚 1-2 古井戸 作家名:平岩隆