サイコシリアル【5】
「話を聞いてる限り、お前の行動の中には九紫の気持ちなんて皆無じゃないか。目を覚ませよ、戌亥。妹の為だって言うんなら、妹の気持ちを第一に考えろよ。他の何でもない、妹の気持ちを尊重しろよ!」
「うるせーな。うるせーよ。お前に何が分かるんだよ。生きてる世界が違うんだ。生きてきた世界が違うんだよ!」
「わかんねーよ。誰もお前の気持ちなんか分からない。お前じゃねーんだからな。生きてる世界が違う? そんなことが理由になんのかよ! いいか、僕にとって今一番重要なのは、二人を悲しませたってことなんだよ」
「感情論で話してるじゃねーよ、ガキが!」
「理論も概念も論理も価値観も裏を返せば、全て人間の感情だろ。いいか、戌亥。歯食いしばれよ。僕は全力でお前を殴ってやんよ」
僕は、そう言い切った時には、殴るモーションに入っていた。
右腕は、使い物にならなくなっているから勿論、左ストレート。
右足に体重を乗せ、拳を放つ。
「いい加減・・・・・・目ぇ覚ませえええええええ!」
僕が、左ストレートを放った時とほぼ同時に九紫戌亥は、右ストレートを僕に向けて放っていた。
あまりに唐突な出来事であったからであろう。九紫は、目を見開き驚愕するだけであって、止めることが出来なかったみたいだ。
九紫戌亥の右ストレートと僕の左ストレートが交差した。
殺人技や体術なら、九紫戌亥の方が何枚も上手だろう。こればっかりは明確だ。
けれども、これは感情と感情のぶつかり合い。そこに『業』という技術は皆無であり、思考という『読み』なんて無に等しい。ただ、自分の想いをぶつけるかのように、相手を殴る。理論もクソもない、ただの愚行かもしれないけど。的確な感情表現だとも思う。
━━ゴキッ!
九紫戌亥の右ストレートが、僕の顎を直撃した音だった。多分、顎の骨が逝ったのか顎が外れたのだろ。
僕は、その勢いに押し負け、またもや部屋の壁に叩きつけられた。
作品名:サイコシリアル【5】 作家名:たし