ちょっと怖い小咄 【二幕】
小咄其の拾九 『正義の味方・勇者編』
「どうしても行くのか? あ、あの伝説の館へ」
「おおお、恐ろしい…」
男は引き留める友人たちの手を振りほどき、言った。
「ああ、いつかは越えなければいけない壁なんだ。行かせてくれ」
「後悔するぞ」
皆、恐怖に顔を引きつらせている。
「…覚悟の上だっ!」
堅い決意で眼前の館をにらむ男。
「おお、勇者よ」
畏怖と賛辞を背中に受け、男は唇を噛みしめ、古ぼけた館に足を踏み入れた。
ガラリ。
「へい、らっしゃい。」
勇者はやって来た。三つ星認定になった江戸前の寿司屋に。
「なんにしやしょ?」
時価、と書かれた品書きがずらりと並ぶ。あまり厚みのない財布を握りしめ、震え
ながら言った。
「―――おまかせで。」
・・・おしまい。
作品名:ちょっと怖い小咄 【二幕】 作家名:JIN