ちょっと怖い小咄 【二幕】
小咄其の拾参 『正義の味方・シンイチロー』
「怪獣だー!」
月形半平太は叫び声に振り向くと、そこには小山のような怪獣が立ちはだかってい
た。静かな街に唐突に現れた怪獣に逃げ惑う人々。絶体絶命!
…と、そこにまた唐突に銀色の巨人が立ち塞がった。ライオンのような髪型に細い
目が輝く。
「あ、あれは…」
どこかで見たような。(たしか少し前のタカ派の総理大臣…古泉とか…)と、半平
太が思ったとき。
ずばしゅ。
あっという間に巨人は怪光線で怪獣を粉砕してしまった。タメも威嚇も戦闘もな
い。一発で終わり。子供が見たら不満だろうし大人が見てもカネカエセ状態だ。だ
が巨人は満足げに頷き、何か演説を始めた。
「なんかジュワジュワ言ってるけど」
そう言えば、よく政権放送でお見掛けした話しっぷりだ。
「あれは 『この怪獣は大量破壊兵器を隠していた、だから先制攻撃をした』 と言
っておるのだ」
声の方向を向くと、これまた唐突に半平太の隣に銀色に輝く男が現れた。
「私が銀河うるとら組々長ソフィーなの、なんでだろう、なんでだろう、なななな
んでだろ~~~♪」
そう聞かれても答えようもない。そもそもそのギャグを今使う人は少ない。
「あの巨人…あれ、超スーパーうるとらマン? どう見ても古泉元総理…」
「わははは、あまり気にするな」
ソフィーはニコニコである。
「でも総理なんて、いつの時代も公約を守れなくって辞めさせられてるんじゃ?
正義の味方は嘘つきにはなれないって…」
「彼等は嘘つきではない。と言うより嘘をついている自覚がない。嘘をつく時の罪
悪感が正義と悪のバロメーターになるのだが、彼等政治家にはそれが微塵もないの
だ。行ってもいない大学だって平気で首席卒業だ。逆に大きな嘘ほど『政治的手腕
が高い』 と賞賛されるらしいぞ」
「そういうもんスかねぇ」
「ちょっと発言がブレた程度で辞めてしまう鳩ポッポな前総理より、やはり彼のほ
うが適任だな。あ・汚沢も良い線いってるが」
よほど、適任者が見つかったのが嬉しいらしい。まだジョワジョワ言ってる巨人の
言葉をソフィーはさらに通訳した。
「君も超スーパーうるとらマンの部下にならないか? なに派遣する先は非戦闘区
域で怪獣も出ない…」
「…絶対、嘘だ。」
・・・おしまい。
作品名:ちょっと怖い小咄 【二幕】 作家名:JIN