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天秦甘栗 悪辣非道3

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 コーヒーを沸かしたお水は、もちろんその川の水である。それを平然と飲んでいる2人に河之内は気持ち悪そうな顔をした。たき火の火が灰になる頃、やっと河之内は許された。やった事のない労働でヘトヘトである。
「ごくろーさん、今からお風呂沸かすから入っておいき!」
 そして、天宮は斧を手渡して家の横に積み上げているまきを指さして「あれを割ってね」と笑顔で言った。
実は天宮家は、ガス、水道、電気完備である。だから、まきを使わなくても、お風呂は、炊けるようにしてあるのだが、せっかく河之内が来たので、させてあげようということになったのである。
「割ったら、お風呂のたき口に持って行って炊いてくれる? 水は入れてあるから」
「あの、どうやって炊くんですか?」
「木を入れて、火をつけるの」
 深町は簡単そうに言うが、慣れていないと大変である。まず火をつけること自体が難しい。深町も天宮も、すでにベテランの域に達しているので、まきに火をつけるくらいは枯れ木と枯れ草とライターがあれば5分とかからないが、都会育ちの河之内は火をつけるだけで、裕に1時間はかかってしまった。湯が沸いた頃を見計らって、天宮がたき口に降りて来た。そして、ススで黒くなっている河之内を笑いながら火をおとした。
「私たちが入るから、まあ、そこで草むしりでもしてなさいね」
「はい」
 精も根も尽き果ててしまった河之内は抵抗する気力もなくなったらしく、しずしずと畑の方に降りて行った。
「えりどーん、入れるよー」
「うーん」
 そんな河之内をニヤニヤと笑いながら天宮は見送った。
「まだ、こりてないなあ」
 河之内がきいたら泣いてしまうような言葉を天宮は呟いた。風呂に入って一息ついた河之内は、やっと自分を取り戻した。
「コピーを返して下さい、天宮さん」
 居間でテレビを見ていた天宮の前に河之内があらわれた。しかし、天宮の方が一枚も二枚も上手であることを、河之内はまだ気付いていない。
「今から買い物に行くから、留守番しててね」
「えっ?」
「車借りるね、河之内」
 手を差し出している河之内の横を通り抜けて、天宮は外へ出た。追いかけた河之内に、天宮は次の指示を与える。
「この龍之介を捕まえておいてね」
 そう言うと、天宮は深町にうなずいた。深町は龍之介に向かって「龍之介、GO!」と言うと、龍之介は一目散に山に向かって走って行った。
「呼べば帰ってくるから」
 それだけ言うと、2人は河之内のランボルギーニディアブロ(カウンタックのことだと思う)に乗って出掛けた。帰りたくとも帰れない河之内は仕方なく家に戻った。30分程して河之内が「おーい!!」と呼ぶと龍之介が帰って来た。しかし、河之内の手前30mでしっぽをふっている。
「もうすぐ、ご主人が戻って来るぞ。早く来い!!」
 河之内が、そう言いながら龍之介の前まで歩いて行く。あと少しで手をかけられそうなところに来ると龍之介はダッシュしてまた50m程行ったところで待っている。今度は走って行ったが、それでもまた逃げる。犬まで俺をコケにしていると、河之内は走って追い掛けるが龍之介は遊んでもらっていると思っているので、絶対に河之内の手が届くところまでは来ない。さすがに大型犬の足にはついて行けず、河之内は道路に座り込んだ。
 そこへ、自分の車が戻って来た。スピードもゆるめず突進して来る。殺されるーと、思った時に車が急停車した。河之内の鼻先50cmで止まっている。「何してるの?」
「いえ、犬を追いかけて」
「役にたたないなあ。りゅうちゃーん、御飯だよー」
 天宮がそう叫ぶと、龍之介は全速力で走って来て飛び付いた。
「何が難しいの? どけて、そこ」
 慌てて河之内がどけると、ディアブロは龍之介を乗せたまま、天宮家まで戻った。どこを走って来たのか、土砂まじりの水を車の全体に余すことなく付けている。
「やっぱり、こういうのは山にむいてないね。サスが、やわらかすぎて、えりどんが酔っちゃったわよ」
 実のところは、天宮がわざと舗装されていない林道を走って汚したのである。
「こういう低い車は、気持ち悪いね」
 助手席の深町も、そう言いながらゆっくりと降りた。後部には1週間の買い出し品が乗っている。それを家に入れると天宮は河之内にキーを返した。
「もう帰ってもいいよ」
「はい」
「ただし、えりどんのとこにもコピー渡したから、この人の電話にもちゃんと出てね」
「はいー」
「えりどん1人だからといって悪ふざけすると、私の持てる力とコネクションで河之内をつぶしにかかるから、そのつもりで心してえりどんの役に立ちなさい」
 あのコピーと天宮に対する恐怖で、河之内は何も言い返せないで黙ってうなずいた。
「さしずめ、用事はあるの?えりどん」
 深町は、うーんと考えて「山程あるのよ、ホホホ…」と笑って「男手があると楽だしねえー」と付け足した。
「土日にして下さい。私にも都合が…」
 やっと河之内は反論というか、お願いを口にしたが、天宮は知らぬ顔である。
「河之内、秦海にいろいろ楽しい話をしてくれてありがとうー、私に言うことはない?」
 そのまま河之内が黙っているので、天宮はディアプロのバンパーを思いっきり蹴った。
「私が、悪うございました!!」
「よろしい、では、さようなら」
 頭を下げている河之内を残して、2人と一匹は家に入った。
「まだ足りないね。えりどんー、どんどん頼めば?」
「うん、いろいろあるしねえー」
 2人はそう言って笑いながら居間に上がった。


 それでも「こりない男」河之内は、よみがえって復讐の機会を狙おうとするのだが、ちょうどそれを見越したように深町から連絡が入った。それも午前2時である。
 「屋根に枯れ葉がたまっているから、落として」という依頼を受けた。
 ウィークデーなのだが、逆らうには相手が悪い。せっかく復活した河之内だが、また行き意気消沈する。天宮の家の屋根には、かなり枯れ葉が積もっていた。それをスコップと竹ほうきで、きれいに掃き落として、その時は帰ったのだが、その日の夜に連絡が入った。
「家の前に枯れ葉を落としたまま帰ったね。やり直し」
 とりあえず、落とせばいいのだろうと思っていた河之内は、しまったと気付いた。
「分かりました。明日の朝一番でうかがいます」
 すっかり、いい子の返事を返して河之内はケイタイを置いた。そう、天宮は怖いが、天宮の友人は怖くない。こちらを味方に付てやろうと思い付いた。こりない男は健在である。
次の日、朝からまた天宮の家へ行き、前日自分が落とした枯れ葉を下の畑へ運んで堆肥としておいた。
きれいに家の前を掃除すると、家の表で「えりどんさん、終わりました」と声をかけた。
「はい、ごくろーさま、帰ってね」 と、声をかけた深町に河之内は、いつもの営業スマイルで「あなたのためにやってるんですよ」とキザッたらしく見つめた。そんな河之内のことは天宮から聞いて知っている。「こりない」って本当なんだなあ、と深町は「それで?」と尋ねてみた。
「どうか私をあなたの下僕にして下さい。あなただけの」
 素晴らしい殺し文句だ、と河之内は自分に惚れ惚れするが、深町の反応は違った。げろげろーと、いやそうな顔をしている。
作品名:天秦甘栗 悪辣非道3 作家名:篠義