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夢幻堂

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第九章 吉兆の豆達磨


 吉兆──それは、よいことやめでたいことの起こる前ぶれ。瑞兆や瑞祥とも言う。

 手にしたものの幸せを望み、ただそこに在るだけ。なにも発さず、ただ静かにその場に在り続けることの、どんなに難しいことか。
 人は愚かで、そして欲深い。欲深くなるほど、待つことすらできなくなる。そんな人間のすぐそばで、ずっと佇んでいた。とうの昔に忘れ去られ、物置の隅に追いやられ、埃をかぶってもとの色が分からなくなっても、ずっと───ずっと、在り続けたまま待っていた。
 …………朽ちて、壊れてもなお。

作品名:夢幻堂 作家名:深月