Minimum Bout Act.01
シンは黙る。殺されていた老女の首は、見事一撃で落とされていた。普通の人間が一撃で首を落とすという事は、世界一切れ味が鋭いと言われる日本刀を使っても難しい。手慣れた者、いわゆる殺しのプロの仕業と言わざるを得ない。
カッツとシンは数年前まで軍に所属していた。数えきれない程の死体を見て来たし、この仕事をするようになってからもこういった陰惨な事件に巻き込まれることも多々ある。
あの死体独特の香り。ほんの数秒前まで生きていたそれは、たった一つの何かで死へと向かう。
ぐすりと鼻をすすり、カッツが顔を上げた。
「うおい、こら! さっさと調書取れ! いつまで待たせんだ、こらあ!」
「相変わらずやかましいな、お前は」
そこへやって来たのは、カッツに負けず劣らずの体躯をした中年の男だった。少し寂しくなりかけた頭をペチンと叩くと、カッツの肩をコツンと拳で押す。
「トレイン! 久しぶりだな、このヤロー!」
カッツはトレインと拳を合わせて笑う。
「よお、シン。お前まだこいつと組んでんのか?」
隣りで静かに2人を見ていたシンが微かに笑った。
「まあな。1人にすると猛獣より危険だし」
「はははっ! 言えてらあ」
このトレインはドルクバの刑事だ。カッツが軍に所属していた頃の同期で、古くからの知り合いである。
元々刑事をしていたトレインは上層部命令で一時期軍へ入隊し、その後刑事として復帰した。カッツが軍を退役したのはトレインが辞めたすぐ後だが、このMBを立ち上げて間もない頃に警察との関係をスムーズにしてくれたのはトレインだった。
なんでも戦地でカッツがトレインの命を助けたことがあり、その借りの為にトレインはカッツには良くしてくれているのだそうだ。
警察では掴みにくい情報もカッツが仕入れる事が出来その逆の場合もある為、お互い持ちつ持たれつの関係を保っている。
「うっせーな。人を猛獣と一緒にすんな……しかしトレイン。この事件、組織絡みだよな」
「報告を聞いただけだが、間違いないだろう。被害者のエレン・リードだが、10年前に事故にあって、それ以来あまり出歩かなかったらしい。そんなばあさんが組織と一体どんな関係があるってんだ?」
「10年前?」
カッツとシンが顔を見合わせると、室内からトレインを呼ぶ声が聞こえた。
「ちょっと行って来る。悪いがもう少しだけ待っててくれ」
作品名:Minimum Bout Act.01 作家名:迫タイラ