Minimum Bout Act.01
『そいつと間違ってIDが登録されてんのか?』
「それはないわね……こっちのエレンは現在65歳……っ!?」
突然画面が激しく点滅し始め、部屋中に警報音が鳴り響いた。
ルーズはすぐに強制終了ボタンを押し、素早く予備のパソコンを立ち上げチェックを始める。
『どうした?』
カッツの声に、ルーズは小さくため息を吐いた。
「トレースされそうになった」
『大丈夫なのか?』
このような状況になったのは一度や二度ではない。ルーズはいつもと変わりなく平静とした様子で答えた。
「問題ないわ。でも、このセキュリティを追えるとなると……」
『……ID偽造といい、俺達の居場所を突き止めたことといい、組織が関係してんだろうな』
重罪であるID偽造は一般人にはリスクが高すぎる。もしエレンのIDが偽造だとするならば、裏社会の組織が関係していると考えるのは自然な事だ。
「中継衛星のダミー数を増やしてまた調べてみる。今どの辺りにいるの?」
『俺の愛機は速いんだ。もうじきドルクバに着くぜ』
「そう。どうする?」
『ID偽造は警察に知らせる義務があるしな。取りあえずその65歳の方のエレンにまず会ってみるか』
「それじゃあ私は父親の会社の方を詳しく調べてみる」
『了解。気をつけろよ』
「後で合流しましょう」
****
カッツとシンは難しい顔で小さなアパートの廊下に立っていた。
古ぼけたそのアパートはくすんだ焦茶色の木造で、歩く度にギシギシと耳障りな音がそこら中で鳴る。
ルーズからの連絡で高齢の方のエレン・リードのアパートを訪ねたカッツとシンだったが、自室のベッドで殺されているのを発見したのだ。
そして今は中で警察が鑑識作業を行っていて、2人は第一発見者として事情聴取を受けるまで待たされていた。
「ちっ……こうなったらガキの方のエレン・リードも危ねえぞ」
「本当に存在してる女ならな」
「色んな意味でヤバい。あのガキ、本当にリード社の社長令嬢なのか? あの口と態度の悪さは品性の欠片もなかったぜ」
腕組みをしてしかめ面で言うカッツに、シンは目の前を行き来する警察の様子を眺めながら言った。
「カッツに品性がどうのこうの言われたんじゃ、おしまいだな。一応警察にはガキの方のエレンの所に行ってもらってるし、大丈夫だろ」
「うるせー、呑気かお前は。あのばあさんの死体見ただろ?」
作品名:Minimum Bout Act.01 作家名:迫タイラ