Minimum Bout Act.01
「ムカつくもんは仕方ねえだろ!?」
くるりとルーズを振り返り、カッツがクッキーのかすを口から飛ばしながらこめかみに青筋を作る。
今朝仕事の依頼に来た若い女に、「おじさん」と言われたことを根に持っているのだ。
客はまだ二十歳と若かったため、カッツをおじさん呼ばわりしても何の問題も無いし実際良い年なのだが、自称“イケてる”カッツには一番言って欲しくない単語No.1だった。
まったく呆れる程の精神年齢の低さだ。
それでも前金で結構な金額をキャッシュでもらっているし、生きている状態で再会させれば礼ははずむと言ってくれた、ありがたーい客。シンとルーズはいい加減怒りを静めてもらってターゲット捜しに取りかかりたい所である。
「ちゃんとカッツの格好良さを理解している人間がここに2人いるでしょ? 若い女の子の中にもカッツの魅力を理解出来る子がきっといるから、心配しなくてもいいんじゃない?」
ルーズのこの慰めの言葉は有効だったらしく、カッツはピタリと動きを止めた。
「ーーーそうか?」
まんざらでもない顔でサングラスの下の目を細めて口の端をニタリと上げる。それを見てルーズは微笑んだ。
カッツのツボをしっかりと心得ている。
「ええ。万人にモテる人間なんていないんだから、気にする事ないわよ」
「ああ、ルーズの言う通りだぜ。だからさっさとこいつを捜そうぜ?」
ここぞとばかりにシンも間の手を入れ、コーヒーカップを置くと持っていた写真を指に挟んでカッツの方へ向けた。
「ちっ……あのガキ、仕事が済んだらたっぷり説教してやる」
あまり態度が良いとは言い難い依頼主に、シンも内心腹を立てていた。ただ、毎回腹が立ってもシンがキレるより先にカッツがキレてしまうので、いつの間にやらカッツをなだめる冷静な人という役回りになってしまっているだけなのだ。
小さくため息を吐いて立ち上がると、シンはさっさと階段を上り始めた。
「そんじゃま、ターゲットが働いてた工場まで行ってみるか」
「待てシン、俺も行く」
シンの後に付いてカッツも階段を昇った。途中で足を止めてルーズを見る。
「お前はいつも通り、依頼人の方から探ってくれ」
「了解」
ルーズは階段に預けていた背を起こし、階段脇のドアの中へと消えた。
薄暗い部屋は壁一面機械で埋め尽くされ、液晶画面が大小いくつも鈍く光っていた。
作品名:Minimum Bout Act.01 作家名:迫タイラ