Minimum Bout Act.01
『それと、同じドルクバからカシズー行きの飛行機に乗っていた12歳の女の子がいたんだけど、その子と若い方のエレンと殺されたエレン……ああもう、エレンばっかりで面倒臭いわね……は、近くの座席に座っていたみたいね』
「それじゃあ今俺達の前にいるエレン・リードは、当時12歳のその少女……って事なのか?」
『可能性はあるわね』
でも何故?
『もう一つ面白い事が』
知らずシンは汗をかいていた。
一体そこにどんな意味があるというのか。
ルーズの次の言葉をじっと待つ。
『死んだエレンの母親だけど、生命保険に入っていて、受取人をエレンにしてる。そして娘名義の銀行口座を持っていて、娘の為にかなりの額を貯めていたみたいね』
「それで?」
『それで、亡くなった後に一度大金が引き出されてるの。それから毎年、年に一度定期的に口座から引き出しがあってて、それと同額が引き出された後に振り込まれてる』
「引き出してるのは誰だ?」
『エレンよ。何のお金かはもちろん分からないけど……それともう一つ。母親が亡くなってエレンが退院した後、本人が来て、生命保険受け取り用に別の新しい口座を作って行ったらしいわ』
ぼんやりとだがID偽造のからくりが見えて来た。
「振り込んでるのは?」
『エレン本人ね』
シンは応接室からこちらを時折見ていたカッツに、出て来るように顎で合図を送った。
「じゃあ全ての事を知ってるのはエレンだけって事か……」
「他の生存者は分かったか?」
丁度ドアから出て来たカッツがインカムに向かって尋ねる。
『1人は男性でカシズー在住よ。この人は関係なさそうね。でももう一人は分からなかった』
「分からなかった?」
『ええ、何も情報が残っていないの。調べようにも航空会社にも一切痕跡が残ってなかった……もしかしたら組織や裏社会の人間だったのかも』
「あり得るな。でもまあ、エレンが別人だって証拠はかなり固まって来たから、その証拠を警察に提出して、パスト・ヤーセンの事を確認したら俺らの仕事は終わりだな。ルーズ、お前は今まで調べた事をまとめてトレインに送ってやってくれ」
気楽にそう言うと、カッツは肩をぐるりと回して笑った。
『了解。でもいいの? 組織とエレンは繋がっている可能性が高いわ』
作品名:Minimum Bout Act.01 作家名:迫タイラ