Minimum Bout Act.01
普通の暮らしをしている人間がそうやって事故で命を失う一方で、カッツ達は国のお偉方の為に人の命を奪っていた。地球を戦争で失って宇宙へ逃げておきながら、同じ事を繰り返す。なんとも笑えない話しである。
ガイオの口元をじっと見つめ、シンはもう一度カッツとエレンを確認する。なんと今度は2人して笑っている。あの剣幕はどこへやら、すっかり楽しそうに会話をはずませていた。
ああ見えて実はカッツは色々と考えている。警官がメモを持って来たのを見て、エレンを連れ出した方がいいと考えたカッツが喧嘩に乗じて外に連れ出したのだろう。
「エレンはその時の事を覚えていないんですか?」
ガイオもチラリと外で談笑するエレンとカッツの様子を伺い、首を横に振る。
「とにかく周りは火の海で、痛くて熱くて、焦げ臭くて、ずっと泣いていた、としか……あの子は全身大やけどをしていて、命は取り留めたものの整形手術を何度か受けなければいけないほど酷い状態だったんです。父親である私ですら、顔を見ても誰と分からないくらいになっていましたから」
シンはピクリと目を開き、トレインと顔を見合わせた。
「トレイン、他の生存者が誰か分かるか?」
「あ? そりゃ調べれば分かるが、お前んとこのルーズに頼めばすぐ分かるだろう?」
「あ、そうか」
外へ出てルーズと連絡を取ろうと立ち上がった所でカッツとエレンが戻って来た。
すれ違う瞬間シンを見て、カッツは静かに目を伏せた。
どうやらID偽造の事を父親が知らないというのは本当のようだ。しかし、エレンが顔が判別出来ない程のやけどをしていたという事が、どうも引っかかる。
『どうしたの?』
イヤホンの向こうからルーズの声が聞こえ、シンは10年前の航空機事故の事をルーズに告げた。
すると、
『丁度良かったわ。その事で連絡しようと思っていた所なの』
相変わらず仕事が早い。
「何か分かったのか?」
『ええ。殺されたエレン・リードだけど、その10年前の航空機事故の乗客リストに名前があったの』
「なんだって?」
シンは驚いた。確かにトレインが10年前に事故に遭って以来外出をしなくなったと言っていたが、まさか同じ事故に遭っていたとは思いもしなかった。
作品名:Minimum Bout Act.01 作家名:迫タイラ